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コロナ禍で逆にグローバル化を進めるテロ組織とあの国

「イスラム国」は往時の勢いを取り戻すのか(2014年) REUTERS
<世界でグローバル化退潮の兆候があるなか、「国境線は無関係」とばかりに攻勢を強めるイスラム過激派と、それと「連携」するイラン・トルコ。本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集より>
新型コロナウイルス対策として各国が国境を閉鎖し、移動が制限されたことは、グローバル化退潮の証しに見える。しかしこれを好機とばかりに、より一層グローバル化している勢力もある。イスラム過激派だ。
全世界がイスラム教で統治される1つの共同体になるべきと信じる彼らは、国民国家で構成される現在の世界秩序を否定している。2014年、「イスラム国(IS)」がイラクとシリアにまたがる領域でカリフ制国家樹立宣言をしたのがその象徴だ。
一度は支配地域の大部分を失った「イスラム国」は、8月にはモザンビークの主要港の1つ、モシンボアダプライア港を制圧し領域支配を確立させるなど、軍や治安部隊がコロナ対策に追われテロ対策が手薄になるなか、攻勢を強めている。
インドネシアのシンクタンク、紛争政策分析研究所(IPAC)は4月、「イスラム国」系組織がコロナ禍を利用し活動を活発化させていると報告した。6月にはそのメンバーとみられる男により警官が殺害され、8月には15人がテロ容疑で拘束された。南シナ海の島しょ部は「イスラム国」が自由に活動を展開する「楽園」の1つである。正式な国境を通って越境するわけではない彼らにとって、国境閉鎖は無関係だ。
イスラム過激派は、自らの正当性を主張するために政府のコロナ対策を批判する、という形でもコロナ禍を利用している。タリバンは検疫の様子をSNSに投稿し、アフガニスタン当局よりもコロナ対策に尽力しているとアピールした。武力を用いてイスラム教による世界征服を目指す彼らを、私たちはイスラム過激派とかテロ組織と呼ぶが、彼らは自らを神の命令に忠実な正義の主体であると信じている。
過激派と特定の国家とのグローバルな「連携」も顕著だ。
コロナ禍でイラク駐留米軍が規模を縮小するなか、米軍基地や米大使館に対するロケット弾攻撃が頻発。米当局はイラクのシーア派武装勢力カタイブ・ヒズボラ(KH)を非難している。KHはイランが武器や資金を与えて操る代理組織だ。5月にイラク新首相となったムスタファ・カディミは、イラク国内でイラン権益拡大のための活動を続けてきたKHとの対決姿勢に転じ、6月には治安部隊がKH本部を急襲した。
イランはイラクだけでなくシリア、レバノン、イエメンなどでも、代理組織を操ることでテロ攻撃を実行したり内戦に関与したりしている。アメリカやアラブ諸国が世界最大のテロ支援国家と名指しするゆえんだ。
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