コラム

世界に広がるK-POPアクティビストの輪──ミャンマーで軍事政権抗議活動を行う

2021年11月02日(火)19時00分

ミャンマーで国軍のクーデターに抗議する人々 2021年2月24日  REUTERS/Stringer

<ネットを使った組織的な社会活動を繰り広げているK-POPファンたちが、軍事政権下のミャンマーでも活躍している>

世界に広がるK-POPファンのアクティビスト

この回の記事のタイトルを見て「?」と感じた方もいるかもしれない。ご存じのようにK-POPは韓国の音楽を指す。そのファンたちがネット上でのアクティビストとして活動しているのだ。2020年6月20日、大統領選の最中、トランプ大統領がオクラホマ州タルサで集会を開いた時の騒動は有名だ。事前の申し込みは100万人以上だったが、当日、予約した人々は現れず会場はガラガラだった。トランプに批判的なK-POPファンが大量に申し込み、現れなかったためだ。

また、昨年アメリカに広がったBlack Lives Matter運動では警察署が抗議活動を取り締まるために市民からの通報を受け付けるアプリを用意した。K-POPファンたちは運動を支援するために、ファンカム(K-POPアイドルのライブ映像など)を大量に投稿して使い物にならなくするなどの活動を行い(VOX)、BBCなどのメディアはK-POPファンがアメリカの抗議活動の力強い味方になったと報じた(BBC)。

ミャンマーでは軍事政権への抗議活動

ネットを使った組織的な社会活動を繰り広げているK-POPファンたちが、軍事政権下のミャンマーでも活躍している。もともとミャンマー国内ではK-POPが大人気で多数のファンがいた。今回、軍が政権を握った時に、彼らは持ち前のネットの知識を生かして抗議活動を行うようになった。その様子をFuture TenseがSLATEでレポートしている。Future Tenseは、SLATE誌とアメリカのシンクタンクであるNew Americaとアリゾナ州立大学の共同研究チームである。

ミャンマーの活動家たちには3つの特徴があるという。まず、17歳から21歳くらいまででSNSで人気のあるグループの管理者たちが多い。次に、彼らは盗聴を防止のため内部連絡にTelegramなどの暗号化されたメッセージングアプリを多用している。そして、最もユニークなのは、K-POPファンであり、民主主義革命のために一時的にファン活動を休んで抗議活動を行っていることである。

ユネスコの統計ではミャンマーの2013年におけるネット利用率は13%で、そのほとんどはネットカフェからの利用だった。本格的に普及したのはフェイスブックの無料インターネットサービスFree Basicsが始まってからだった。同時にSIMカードの価格も1.5ドルと安価になり、2014年にはネット利用率は54%に跳ね上がった。

Free Basicsはフェイスブックがインターネットの普及していない地域に提供している無償のインターネットサービスであるが、自由にインターネットを使えるわけではなくフェイスブックおよびグループのアプリと広告主のサービスしか使えない。結果として、Free Basicsが普及した地域では、インターネット=フェイスブックといういびつな世界ができあがり、さまざまな問題が噴出している。Free Basicsが「フェイスブックの悪魔」と由縁だ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ユーロ圏企業、事業見通し楽観 インフレ上振れリスク

ワールド

アングル:ホワイトハウスに「刻印」残すトランプ氏、

ビジネス

ニデック、東証が特別注意銘柄に28日指定 日経平均

ワールド

独IFO業況指数、10月は88.4へ上昇 予想上回
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story