コラム

日本がファイブアイズに自国のプラットフォーム・インテリジェンスを差し出す可能性

2021年05月26日(水)17時00分

英国空軍メンウィズヒル基地の通信傍受施設 REUTERS/Nigel Roddis

<アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド5カ国の諜報情報共有のための仕組み「ファイブアイズ」に日本が参加すると取り沙汰されているが、参加することの意味を考える>

日本のファイブアイズ参加の厳しい現実

数年前から日本がファイブアイズに参加するという話題が日本国内あるいは海外で出ている。ご存じの方も多いと思うが、ファイブアイズはアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド5カ国の諜報情報共有のための仕組みである。

日本では河野太郎が繰り返しファイブアイズへの参加意欲を示している(時事通信、2020年10月23日)。最近ではThe Diplomat誌 に「Integrating Japan Into an Expanded 'Five Eyes' Alliance」(2021年4月22日)と題する記事が掲載された。

しかし、独自の対外諜報機関がない、法的な縛りで自由な情報収集がしにくいなど、超えなければならないハードルは高い。重要度の増しているサイバー防衛に関しても諜報関連の課題は山積みである。たとえばサイバー防衛に欠かせないサイバー脅威情報共有にはかなり問題がある。日本とアメリカは軍事同盟関係にあり、2015年から日米の防衛ガイドラインにはサイバー攻撃が含まれている。そのためバランスの取れた脅威情報の共有は両国にとって重要な課題となっていた。また、2013年の日米防衛フレームワークには脅威情報の共有も含まれていた。だが、実際には脅威情報の共有は思ったようには進んでいない。日本が大幅に遅れを取っていることが原因だ。

サイバー諜報で大きな問題を抱える日本

NATO(北大西洋条約機構)のサイバー防衛協力センター(CCDCOE) の資料では、日本の脅威情報共有の課題について厳しく指摘している。この部分のためだけに2年かけて日本を含め80人の関係者や専門家に取材しているだけあって、かなりくわしく調べられている。

サイバー脅威情報の共有の障害となっているものは主に3つで、日本側の問題ばかりである。なお、これを紹介すると、「話を盛ってないか?」と言われることが多いので原文も併記した。見出しでこのレベルで内容はさらに手厳しい。

(i)脅威情報共有のための能力とやる気(the capacity and willingness to share threat intelligence )
(ii)担当と責任の所在の曖昧さ(fuzzy boundaries of responsibility and accountability)
(iii)パートナー(アメリカ)の意図や戦略文化の不完全あるいは不正確な理解(incomplete or inaccurate understanding of partners' expectations and strategic culture)

指摘されている問題点をひとつひとつ紹介するときりがないが、たとえば「NATOや他の国と連携するためにはサイバー攻撃能力についての最低限の理解と透明性が不可欠である」(つまり今の日本は最低限の理解すらしてないし、透明性もない)といった表現が随所にある。

このレポートを見る限り、日本のサイバー脅威情報を共有できる状態に達していない。このような状態では対等な情報共有は難しそうだ。詳細は拙ブログに記載したので関心ある方はご覧いただきたい。また、先日、PwC Japanが公開した「ジオテクノロジー(技術の地政学)とサイバーセキュリティ」の中でこの章の一部が日本語で紹介されている。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story