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日本がファイブアイズに自国のプラットフォーム・インテリジェンスを差し出す可能性
こうしたことを総合すると、日本がファイブアイズに参加するのは非現実的のように思えるが、必ずしもそうではない。ファイブアイズといっても平等というわけではないのだ。軍事ジャーナリスト黒井文太郎によれば(FRIDAYデジタル、2020年08月21日)、ファイブアイズではアメリカがトップでその次がイギリスというように能力などの差によって序列があり、それによって共有できる情報も異なっているという。
また、9アイズ、10アイズ、14アイズといった言わばすでに拡大版も存在する。そして、日本以外でファイブアイズへの参加が話題に上るインドや韓国はすでに10アイズに参加している。
参加国が平等でないなら現状可能な範囲の情報共有でも日本が末席に参加できる余地はあるような気もする。特に、今後日本の努力で他のファイブアイズ参加国が求める情報を提供できるなら可能性はありそうだ。識者の多くは北朝鮮や中国に関する日本独自の情報を上げるが、実はそれ以外にも(あるいは、それ以上に)ファイブアイズが日本に求めている情報があると筆者は考えている。
ファイブアイズと日本とインドの共同声明
2020年10月11日、ファイブアイズに日本とインドを加えた7カ国が、IT企業に対して「通信の暗号化の際に政府が利用できるバックドア(裏口)を設けるように要請する」声明を発表した(ZD-Net)。平たく言うと、政府機関が必要に応じて暗号化した通信の内容を確認するための仕組みを用意しろ、と各国のIT企業に要請している。日本に関して言うならLINEを始めとするSNSはもちろんそれ以外の各種通信も傍受できるよう仕組みを作るように運営企業に要請したことになる。
この声明がファイブアイズと日本とインドの7カ国でなされたことには意味がある。これまでもアメリカなどは通信傍受や暗号の復号を行ってきた。今回、7カ国の政府が暗号通信を含む通信傍受を必要なこととして共同歩調をとったのは、プラットフォーム・インテリジェンス時代を見据えてのことと考えられる。
インターネットは社会の基盤となり、そのうえでさまざまなプラットフォームがそれぞれの産業分野に広がりつつある。そのプラットフォームが新しい戦略の要になりつつあることは、以前「日本が完全に出遅れた第三次プラットフォーム戦争」という記事でも紹介した。
莫大な情報がリアルタイムに処理され、蓄積されるプラットフォームは諜報活動でも重要な役割を果たす。カーナビや車体そのものあるいはウェラブル端末やIoTなどの情報がプラットフォームを経由して諜報活動に用いられ、監視カメラや顔認証システムなどとも連動するようになる。なんらかの活動をしていれば補足、特定、行動予測、関係者の洗い出しまでできる。これがプラットフォーム・インテリジェンスである。
あくまでも筆者の予想であるが、日本がファイブアイズに加わることは日本の持つプラットフォーム・インテリジェンスの基盤をファイブアイズに提供することを意味するように思える。インテリジェンス後進国の日本がファイブアイズに加わることには、北朝鮮や中国の情報だけでなくプラットフォーム・インテリジェンスの観点からも意味があるのだ。
日本は今でもいくつかの産業分野では世界の有力プレイヤーである。たとえば自動車なら今後拡大するMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)は大きなプラットフォームとなる。生産設備などの制御装置などで使われるPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)は当該施設の稼働状況を知る手がかりになるだけでなく、そこから相手のネットワークに侵入する足場にもなり得る。また、これらを経由する通信の復号だけでなく、傍受チップを埋め込むことができれば新しい情報源となる。 同じことはファイブアイズ参加が取り沙汰されているインドにも言える(Asia Times、2020年10月28日)。
中国はサプライチェーンを通じて、各国に諜報網を広げている(とアメリカは主張している)が、アメリカはファイブアイズを拡張して同じことをしようとしている。同時に日本のようにアメリカと中国という2つの巨大サプライチェーンの双方とつきあうことを想定している国々をより強く取り込む手段にもなる。
アメリカ、中国、インドを中心とした第三次プラットフォーム戦争、経済鎖国化とサイバー安全保障体制、プラットフォーム・インテリジェンス強化といった一連の動きは相互に関係している。
前述のNATO CCDCOEのレポートに書かれている通りなら、現在の日本の能力では自国でプラットフォーム・インテリジェンス基盤を確立することができない。しかし、アメリカに情報(というかプラットフォーム基盤へのアクセス権)を渡せばアメリカはプラットフォーム・インテリジェンスのパーツとして活用できるようになり、日本にもフィードバックが期待できる。ファイブアイズ加入は、プラットフォーム・インテリジェンス基盤の自国管理の放棄につながる可能性がある。
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