コラム

イーロン・マスクが言っていない、倫理面も問われる3つの「少子化対策」

2022年05月16日(月)17時28分
赤ちゃん

Virginia Yunes-iStock

<「日本は消滅する」......イーロン・マスクの発言が物議を醸したが、先進国の高学歴女性が子供を産まなくなるのは世界共通の現象。万人が賛成しづらくも、「少子化で日本消滅」を回避するための3つの解決策とは?>

「当たり前の話だが、出生率が死亡率を上回るような変化が起きない限り、日本はいずれ存在しなくなる。これは世界にとって大きな損失である」

実業家で大富豪のイーロン・マスクがツイッターに書き込んだ言葉が日本で大きな反響を呼んでいる。

しかし、マスクがトイレで軽い気持ちで書いたかもしれない言葉に大騒ぎするのはばかげている。実際、この投稿で言っていることは、「夜になると暗くなる」というのと同じくらい当たり前のことだ。

日本の合計特殊出生率は1.33。2011年以降は毎年、人口が減り続けている。これは日本だけの現象ではない。アメリカ、中国、韓国など世界の半分近い国で、出生率が人口を維持するのに必要な水準である2.1を割り込んでいる。

人口減少は経済成長の足を引っ張り、年金制度などの社会保障制度の財政を逼迫させる。出生率の低下は、20~21世紀における社会の3つの大きな変化が原因だ。それは、都市化、女性の教育レベルの上昇、避妊法の普及である。

まず、都市化が進行すると、女性が産む子供の数は減る傾向がある。伝統的な農村社会では、子供をたくさん儲けることが生き残りのための有効な手段だった。

一家の労働力が増えれば、安全と食料を確保しやすくなるからだ。しかし、都市の生活では、家庭外の自由と機会が広がり、多くの子供を産もうという動機が弱まる。

高いレベルの教育を受けた女性は、キャリアとライフスタイルの選択肢が増え、自立した人生を送りやすくなる。その結果、出産と育児に全てのエネルギーを注ぐのではなく、一人の人間として充実した人生を送るためにもエネルギーを割くようになる。

1960年以降、女性たちはピル(経口避妊薬)を用いることにより、いつ、何人の子供を産むかを自分でコントロールできるようになった。ピルが利用できるようになった国ではどこでも、家庭外での機会を追求するために子供を儲ける時期を遅らせる女性の割合が増えている。

多くの国では、出産時の現金給付や有給出産・育児休業制度などの対策を実施してきたが、出生率の低下という大きな流れを変えることはできていない。移民を受け入れても、都市部の高教育層の出生率低下の根本的な原因を改めることはできない。

出生率の上昇につながる可能性がある変革が3つある。しかし、いずれも万人が賛成するものではない上に、私たちの生き方を根本から変えることになる。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

赤沢再生相、米商務長官と電話協議 「自動車合意なけ

ビジネス

日経平均は反発、対日関税巡り最悪シナリオ回避で安心
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story