コラム

トランプが去っても「トランプ政治」はアメリカを破壊し続ける

2020年11月17日(火)19時15分

magSR201117_Trump2.jpg

11月3日の投票日、テキサス州の投票所近くで対峙する双方の支持者 GO NAKAMURA-REUTERS

ティーパーティーやQアノンの活動が政府の機能麻痺を生むことは、ほぼ避けられない。ティーパーティーはこれまでも連邦政府をたびたび一時閉鎖に追い込み、新しい法律や政府の行動をことごとく阻止しようとしてきた。そうした先には確実に、社会の混乱が待っている。

国民に政府を憎ませた共和党

私の大学時代の同級生で共和党に絶大な影響力を持つ全米税制改革協議会会長のグローバー・ノークイストはこの40年間、連邦政府の規模を半分に減らすことを共和党の主要な長期目標の1つと位置付けてきた。社会保障・福祉制度をほぼ全廃し、連邦政府の役割を国防と国境警備に限定しようというのだ。

共和党の政治家が選挙でノークイストのグループの支援を受けるためには、「誓約書」に署名しなくてはならない。決して増税に賛成しないことと、連邦政府の規模の半減を目指すことを約束させられるのだ。

当然、民主党や多くの国民はこうした動きに反対する。その結果、イデオロギー対立が深刻化し、互いに妥協しようとしなくなる。それが政治の麻痺を生み出し、社会を大混乱に陥れてきた。いま大統領選をめぐって起きていることはその典型だ。

それでも、ノークイストと共和党は、多くのアメリカ人に「政府」への脊髄反射的な敵意を持たせることにかなりの成功を収めてきた。トランプを支持し、「民兵組織」の一員として、「法と秩序」を守るためと称し街頭に繰り出す膨大な数のアメリカ人は、政府を文字どおり敵と見なしている。

1995年には、民兵組織とつながりのある男がオクラホマ州の連邦政府ビルを爆破し、168人の命を奪う事件が起きた。FBIとCIAは長年にわたり、アメリカ国内の安全を脅かす最大の脅威は(イスラム過激派のテロ以上に)民兵組織だと警鐘を鳴らしてきた。しかし、共和党のリーダーたちは、そうした警告を年次報告書に記さないようにと、FBIとCIAに指示していた(私は報告書の執筆を数回担当したことがあるので、それをよく知っている)。

トランプに至っては、2017年にバージニア州シャーロッツビルの極右集会で人種差別的・ユダヤ人差別的なスローガンを掲げたグループや、この10月にミシガン州知事の誘拐を企てたグループを擁護するような発言を繰り返している。

いまアメリカ人の25~40%は、民主主義と相いれない考え方を持っている。政治的取引と妥協を嫌悪する彼らは、ワシントンの腐敗した政治家と官僚のせいで正しい政策が阻まれていると考えているのだ。そこで、「政治家」ではない「アウトサイダー」に期待を寄せる。支持者はトランプをそのような存在と位置付け、トランプ自身も4年前、アメリカの課題を解決できるのは自分しかいないと胸を張った。

問題は、それがファシズムの温床になりかねないことだ。腐敗したエリートと官僚機構から人々を守るためには強力なリーダーが必要だという発想は、民主主義の土台を揺るがし、政府を機能不全に陥れて、社会不安と暴力を生む危険がある。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

MUFG、印ノンバンクに40億ドル以上出資へ=関係

ワールド

訪日客11月は10.4%増、紅葉で好調続く 中国は

ビジネス

日経平均は反発、米雇用統計通過で安心感 AI関連も

ワールド

ブラジル中銀、金利据え置き戦略は適切と現時点で結論
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story