コラム

トランプでもトランプに投票した7000万人でもない、米大統領選の真の「敗者」とは

2020年11月10日(火)16時00分

各州の投票所に長蛇の列ができるのは共和党の施策も影響している(テキサス州ヒューストン) AP/AFLO

<都市部、マイノリティーを狙い撃ちにした共和党の「投票抑制策」をたっぷりご紹介。こんなことをしていたらアメリカの民主主義は壊れてしまう......。本誌「米大統領選2020 アメリカの一番長い日」特集より>

選挙不正だ! Stop the count !( 集計を止めろ!)訴えるぞ!大統領選挙でこんな荒らげた声を聞くのは今回が初めてではない。今ニュースで流れている光景は、2000年に民主党のアル・ゴア候補と共和党のジョージ・W・ブッシュ候補が対決したときとそっくりだ。
20201117issue_cover200.jpg
突然だが、ここでクイズ。あのとき、全国で1億人以上が投票したが、果たして何人の票で大統領が決まったでしょうか?

僕が思う正解は「5人」。

説明しよう。2000年のフロリダ州の選挙は問題だらけだった。票の集計が終わった段階では1784票差でブッシュが優位だったが、僅差のため再集計が始まった。さらに、機械トラブルによる無効票が非常に多いことが発覚。手作業で一枚ずつ票を確認していくと、ゴアがどんどんブッシュのリードに食い込んでいく。その時!......妙に高そうな服を身に着けた「デモ隊」が一番大きな郡の集計事務所に殴り込んだ! Voterfraud! Voter fraud!(投票詐欺!投票詐欺!)と叫び、集計作業の停止を要求した。

デモ隊の正体は自発的に立ち上がった市民ではなく、共和党に雇われワシントンから飛んできたプロの活動家。つまりフェイクだった。服装から「ブルックス・ブラザーズ暴動」と揶揄され、「おまえらが詐欺だろう」と突っ込まれたが、作戦は成功し、再集計は止められた。

そして選挙を管轄するフロリダ州の州務長官が「ブッシュの勝利」と、途中結果を最終結果として承認した。不思議なことに、この州務長官はブッシュの選挙対策チームのフロリダ委員長でもあった。そう、ゴア対ブッシュの対決は、ブッシュチームのメンバーが審判役! 草野球でも許されないような偏った仕組みだ。

ゴアは当然、再集計の再開を求めて提訴。ブッシュ陣営は応戦して法廷闘争へ。ゴアは一審で負け、上訴して勝つ。そして最後に連邦最高裁でまた負けた。そのとき、最高裁の判事は5対4で割れた。ということで、再集計を止め、ブッシュ大統領を誕生させた判事の「5人」が......僕の思う正解だ!(忘れていたかもしれないが、これはクイズだ)。

都市部・有色人種を狙い撃ち

共和党はブッシュ対ゴアの経験から、ある作戦に目覚めたようだ。例の機械トラブルは主にフロリダの都市部の投票所で起きたため、都市部に集中する民主党支持者の票がいくらか少なくカウントされたもよう。後々、「あっ、あれは偶然だが、同じことを人工的に再現できたら僕らに有利だ!」と、火山の下の秘密基地の中で白い猫をなでながらひらめいたと、僕は妄想する。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イランの「黒い雨」、WHOが健康被害を警告 

ワールド

欧州委員長、原発縮小は「戦略ミス」 化石燃料依存に

ワールド

G7、石油備蓄放出のシナリオ策定をIEAに要請=仏

ワールド

イスラエル外相「終わりのない戦争望まず」、終結時期
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開された皇太子夫妻の写真が話題に
  • 4
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目…
  • 5
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 6
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 7
    身長や外見も審査され、軍隊並みの訓練を受ける...中…
  • 8
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 9
    トランプも無視できない? イランで浮上した「危機管…
  • 10
    50代から急増!? 「老け込む人」に共通する体の異変【…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 7
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 8
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 9
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story