コラム

事実上、大統領・上院多数・下院多数が民主党になる「トリプルブルー政権」に突入する米国政治

2020年11月07日(土)11時45分

共和党上院議員の顔ぶれを見れば、事実上のトリプルブルー政権となる...... REUTERS/Hannah McKay

<大統領はバイデン、連邦下院は民主党、上院は共和党という構成になり、「ねじれ議会になる」と分析しているメディアが多いが、これは厳密には正しくない...... >

現在、米国大統領選挙と上下両院連邦議会議員選挙の開票結果がほぼ出揃った状態となっている。

米国の場合は開票結果を受けて「投票に関する不正があった」として相手の票を減らそうと努力するところまでが慣例なので、筆者はトランプ大統領がその手の主張をすること自体には何も驚きを覚えていない。

一連の訴訟は時間と手間の無駄である可能性が高いが、これも民主主義のコストであるから裁判で結論が出るまでやるべきだろう。ただし、その訴訟内容は一部の合理性あるものを加味したとしても、選挙戦全体の結果に影響を与える可能性は少ないものと判断している。

「ねじれ議会になる」という分析が多いが、厳密には正しくない

筆者の関心は既にバイデン政権発足以後の米国政治の見通しにある。もちろん、これから同政権の移行チームによる人事作業が本格化し、政権の政策の優先順位などを分析するためには当該人事を細かく精査することが必要であることは言うまでもない。

しかし、現状でも大統領と連邦議会の構成から今後の政局展開を分析・予測することは可能だ。

筆者の仕事には金融機関の資金運用責任者らに米国政治の分析を提供することが含まれる。そのため、各種データの状況に鑑みて、昨年末から今年の大統領選挙は「トリプルブルー政権誕生」の可能性があることを示唆してきた。このトリプルブルーは筆者の造語であり、いまでは金融界を中心に幅広く使われるようになっている。簡単に言うと「大統領・上院多数・下院多数が民主党になる」というシナリオのことだ。

現在、メディアは大統領はバイデン・連邦下院は民主党、上院は共和党という構成になると主張し、「ねじれ議会になる」と分析しているケースが多い。しかし、これは厳密には正しくない分析だと言える。

第一に、上院は民主党・共和党50:50の同数になる可能性が残されている。11月7日現在、ノースカロライナ州の上院選挙は共和党優勢の票数となっているが、いまだ未開票とされる票数や投票日から9日後までの郵便到着票が有効とされる同州のルールを前提とすると、民主党のカニンガム氏が上院議席を逆転奪取することがあり得る。この時点で民主党の議席数は49となる。その上で、来年1月5日に持ち越しとなったジョージア州の上院議席を巡る特別選挙の結果で民主党候補者が勝利した場合、前述の50:50の状況になるというシナリオは蓋然性が十分にある。(追加修正:原稿執筆後、ジョージア州の特別選挙が1議席分ではなく2議席両方と決定されたため、民主党の獲得最大議席数は51もあり得る状況に) 上院では投票時に賛否同数になると副大統領が裁定投票するため、このケースは民主党が過半数を事実上の奪取していることを意味する。

第二に、共和党上院議員の中の「名ばかり共和党員の存在」が挙げられる。「名ばかり共和党員」とは政局上重要な局面になると、民主党側の主張に同調する投票行動を行う議員のことだ。今回、メイン州で共和党のスーザン・コリンズ上院議員が生き残ったが、彼女は誰もが納得する「名ばかり共和党員」であり、最高裁判事承認、オバマケア見直し、環境問題に関する投票などで度々民主党員のような投票行動を取ってきた人物だ。そして、コリンズほどではないものの、リサ・ムルカワスキ―上院議員などの名ばかり共和党員は上院に複数名存在している。そのため、共和党がたとえ51議席を保有していたとしても、いざと言う場面で共和党は過半数割れを起こす可能性が高い。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

加州高速鉄道計画、補助金なしで続行へ 政権への訴訟

ワールド

コソボ議会選、与党勝利 クルティ首相「迅速な新政権

ワールド

訂正中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 30

ビジネス

中国、無人航空機を正式規制 改正法来年7月施行
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story