コラム

近未来予測:もしもアメリカが鎖国したら...世界に起こること

2020年09月09日(水)17時05分

新型コロナウイルスでアメリカではこれまでに200万人超が死亡。医療制度は崩壊した。2020年5月、当時のドナルド・トランプ大統領は中国が「真珠湾攻撃よりもひどい」奇襲攻撃を仕掛け、ウイルスをばらまいたと主張した。ドリスの近所の人たちのざっと3分の1は今もその話を信じているようだ。

その後もコロナ禍は収まらず、政府の無策に人々はしびれを切らし、抗議デモの波が全米に広がった。アメリカ社会を分断する亀裂からマグマのように憎悪が噴出、一部の都市は騒乱状態に陥った。

混乱が広がるなか、政府は「中国ウイルスの侵入を阻止する」という名目で国境を封鎖、それがあっという間に鎖国政策にエスカレートした。

天然資源と人的資本に恵まれたアメリカは世界の国々の中でも例外的に、複雑な市場経済を維持しつつ自給自足を達成しやすい。

2018年にはGDPに占める貿易額の割合は27.5%だったが、今では1950年代以降最低の5%にまで落ち込んでいる。外資を締め出したために金利は急上昇。成長は止まり、資金不足で老朽化したインフラは崩壊の一途をたどっている。

ドリスは軍と警察の検問所を迂回するため遠回りして自宅に向かった。

南シナ海戦争の勃発時、ドリスの夫はまさにその場にいた。夫が乗り込んだ駆逐艦が「航行の自由」作戦を決行中、中国の監視船が体当たりを仕掛けてきたのだ。駆逐艦はミサイルを発射し中国船を撃沈。近くのスプラトリー(南沙)諸島に展開していた中国軍が「米軍の侵攻」に直ちに反応し、中距離弾道ミサイルを発射。米原子力空母「セオドア・ルーズベルト」を撃沈した......。

この戦争には日本、ベトナム、オーストラリア、インドも巻き込まれた。米軍は南シナ海の中国軍施設をずたずたにしたが、中国軍も沖縄の米軍施設を破壊し尽くした。これに懲りてアメリカはあらゆる防衛同盟からの脱退を宣言した。

「本物のアメリカ人」とは誰か

そこでインド、日本、オーストラリアは南シナ海とインド洋の航行の自由を守るため急きょ「日豪印海上防衛協定」を締結。中国向け貨物を積んだ船舶をマラッカ海域から締め出した。中国市場を失って原油価格は暴落。中東全域に混乱が広がった。

アメリカが抜けた後、NATOは「欧州条約機構」の略称であるETOと改称。中東からの難民の大量流入に対処するため、南欧諸国に重点的に兵力を配備した。その隙にロシアはウクライナ東部を併合し、バルト3国との国境地帯にも大量の兵員を投入。南部と東部の二方面の危機にさらされ、ETO加盟国は徴兵制の再導入に踏み切ることになった。

【関連記事】米中新冷戦でアメリカに勝ち目はない

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU・仏・独が米を非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ビジネス

中国人民銀、為替の安定と緩和的金融政策の維持を強調

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1万件減の21.4万件 継

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 6
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 7
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story