コラム

近未来予測:もしもアメリカが鎖国したら...世界に起こること

2020年09月09日(水)17時05分

MASTER1305/ISTOCK (DOOR), FEIFEI CUI-PAOLUZZO-MOMENT/GETTY IMAGES (BACKGROUND)

<20XX年、新型コロナ禍と南シナ海戦争を経て、アメリカが完全に国境を閉ざした――。人と物の往来が止まり、世界では今「脱グローバル化」が議論されている。その極端な「影響」をフィクションのかたちで描き出す。本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」より>

(※この記事はフィクションです)

車のラジオからホワイトハウスが打ち出した最新の宣伝文句が聞こえてくる。「アメリカだけがあなたの安全と幸福を守る」

皮肉は意図していないときに一番効く――スーパーマーケットへと車を走らせながら、ドリスは思った。今ではこの文句はある意味当たっている。大統領が宣言した「オンリー・アメリカ(アメリカだけ)」政策の下、外国製品の輸入は禁止され、アメリカはあらゆる同盟から離脱した。
20200901issue_cover200.jpg
スーパーの棚にはメイド・イン・USAの商品ばかりが並ぶ。娘の好物の枝豆はなし。フランス産やイタリア産のワインもない。もうじきピザも姿を消すだろう。実際、ドリスが幼かった1960年代にはピザは「外国」の食べ物だった。

どのみちワインは買えない。家計が苦しいから。最近車を買い替えたばかりだが、これまで乗っていたホンダに比べ、国産車は法外に高かった。

外国車の締め出しはアメリカの自動車メーカーにとっては願ってもないチャンスのはず。だがサプライチェーンは寸断され、増産体制はすぐには築けず......。外国勢の穴を埋めて市場シェアを拡大するどころか、供給不足で顧客が離れ、市場そのものが縮小。米自動車業界のあまりの苦戦ぶりに、失業者の激増を恐れて政府が救済に乗り出したほどだ。

ドリスはディナーのためにアメリカ産のロブスターを2尾買った。今夜はお祝いだ。沖縄に赴任していた海軍勤務の夫が帰ってくる。沖縄の米軍基地は2022年の南シナ海戦争で壊滅的な被害を受けたが、修復はほぼ終わったと、夫は話していた。もめにもめた交渉の末に停戦が成立。以後衝突は起きていないが、一触即発のムードは続いている。

物思いにふけっていたドリスは、レジの列で現実に引き戻された。鎖国政策の影響でスーパーやレストラン、建設現場から働き手がどっといなくなった。深刻な人手不足で、客は延々と待たされるようになり、多くの事業が閉鎖に追い込まれた。それでも失業率は高止まりしている。国境封鎖で人だけでなく、モノとカネの流れが止められたせいだ。

「中国ウイルスの侵入を阻止」

「外国人労働者を締め出したから、こんなに待たされるんだ」。後ろに立っている男がぼやいた。すると、もっと後ろのほうから怒鳴り返す声がした。「おい、忘れたのか。あれは『中国ウイルス』だったんだぞ」

【関連記事】世界経済は「後退」の局面に入った──脱グローバル化と多国籍企業

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB当局者、6月利下げを明確に支持 その後の見解

ワールド

米、新たな対イラン制裁発表 イスラエルへの攻撃受け

ワールド

イラン司令官、核の原則見直し示唆 イスラエル反撃を

ワールド

ロシア、5─8年でNATO攻撃の準備整う公算=ドイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲…

  • 7

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 8

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 9

    インド政府による超法規的な「テロリスト」殺害がパ…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story