コラム

習近平の「独裁体制」は弱さの裏返し

2018年03月08日(木)11時15分
習近平の「独裁体制」は弱さの裏返し

かねてから噂されていたように毛沢東並みのワンマン支配を目指すのか Aly Song-REUTERS

<習近平の終身政治に道を開いた中国共産党の決定は、個人的な傲慢さによるものか指導部の不安の証左か>

2018年2月25日は、21世紀前半の世界を変える重大発表があった日として歴史に刻まれるかもしれない。中国共産党中央委員会はこの日、国家主席の2期10年の任期を撤廃する憲法改正案を発表。3月5日から始まる全国人民代表大会(全人代)で改正が成立するのは確実で、習近平(シー・チンピン)主席は3期目以降も現職にとどまれることになる。

この動きが歴史的に重要なのは、習の終身統治が第二次大戦後の世界秩序を葬り去る可能性があるからだ。市場資本主義、民主主義、個人の権利を中心とした政治制度など欧米の価値観に基づく秩序が失われかねない。

これからは中国が世界のリーダーになると、習は明言している。つまり、個人より国家を優先する「中国モデル」の独裁的統治が、過去75年間近く各国の統治の模範として、また国際的な枠組みをつくる上でも、重要な役割を果たしてきた欧米型民主主義に取って代わろうとしている。

中国が影響力を増す一方で、アメリカは自国第一主義を叫ぶドナルド・トランプ大統領の下、国際舞台からの撤退を決め込んでいる。この状況では2018年が、冷戦の終わった1989年、いや第二次大戦終結の1945年以降、世界の勢力図が最も大きく変わった年として歴史に刻まれかねない。

「アジア型」開発モデルについては、78年の鄧小平(トン・シアオピン)の改革開放以降、さまざまに論じられてきた。鄧の市場経済導入も、リー・クアンユーの指導下でのシンガポールの経済成長も、独裁的な統治と市場ベースの経済開発を組み合わせた、いわゆる「開発独裁」だ。

政治活動の自由や個人の権利が制限されても、経済が成長していれば、人々は政府を支持し、社会の現状に満足するといわれている(特にアジア人はその傾向が顕著だとの説もある)。

開発独裁は中国古来の儒教文化とも親和性が高い。儒教の伝統では政治は政治家の専売特許で、民が口出しすべきものではない。政府は自分たちがつくったり、改革したりするものではなく、天候のようにただ受け入れ、耐えるものとされてきた。

結局のところ長年にわたる共産党の支配をもってしても、中国に深く根付いた儒教の伝統はなくせなかった。実際、今の中国の政治と経済にとって、共産主義思想は人民服のように時代錯誤なものにすぎない。共産党政権ですら、儒教の伝統を統治に取り入れている。

「古代高級官僚のガウンをまとったナショナリズム」は独裁体制を支える柱であり、習はかつての皇帝のように絶対的な権限を掌中にしようとしている。

毛沢東時代に個人崇拝が進み、1人の人間に権力が集中し過ぎた苦い経験から、中国は2期10年の主席任期を設けた。今それを捨て去った理由については、2つの可能性が考えられる。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

MAGAZINE

特集:遺伝子最前線

2019-1・22号(1/16発売)

革命的技術クリスパーで「超人」の誕生も可能に── 人類の未来を変えるゲノム編集・解析の最新事情

人気ランキング

  • 1

    「お得意様」は気づいたら「商売敵」に 中国の猛追へ対策急ぐドイツ

  • 2

    人の頭を持つ男、指がなく血の付いた手、三輪車に乗る豚......すべて「白夜」の続き

  • 3

    北方領土が「第二次大戦でロシア領になった」というロシアの主張は大間違い

  • 4

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、…

  • 5

    仏マクロン政権「黄色いベスト運動」対応で財政拡大 E…

  • 6

    日本がタイ版新幹線から手を引き始めた理由

  • 7

    体重600キロ、体長4.4mの巨大ワニが女性殺害 イン…

  • 8

    米政府閉鎖で一カ月近く無給の連邦職員、食料配給に…

  • 9

    中台関係改善の絶好の機会を、習近平は逃した

  • 10

    タイ洞窟からの救出時、少年たちは薬で眠らされ、両…

  • 1

    体重600キロ、体長4.4mの巨大ワニが女性殺害 インドネシア、違法飼育の容疑で日本人を捜索

  • 2

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、被害続発する事情とは

  • 3

    タイ洞窟からの救出時、少年たちは薬で眠らされ、両手は縛られていた

  • 4

    北方領土が「第二次大戦でロシア領になった」という…

  • 5

    エイリアンはもう地球に来ているかもしれない──NASA…

  • 6

    人の頭を持つ男、指がなく血の付いた手、三輪車に乗…

  • 7

    インドネシアの老呪術師が少女を15年間監禁 性的虐…

  • 8

    宇宙から謎の「反復する電波」、2度目の観測:地球外…

  • 9

    タイ洞窟の少年たちは見捨てられる寸前だった

  • 10

    NGT48山口真帆さん暴行事件に見る非常識な「日本の謝…

  • 1

    炎上はボヘミアン・ラプソディからダンボまで 韓国の果てしないアンチ旭日旗現象

  • 2

    口に入れたおしゃぶりをテープで固定された赤ちゃん

  • 3

    あの〈抗日〉映画「軍艦島」が思わぬ失速 韓国で非難された3つの理由

  • 4

    小説『ロリータ』のモデルとなった、実在した少女の…

  • 5

    日韓関係の悪化が懸念されるが、韓国の世論は冷静──…

  • 6

    オーストラリア人の94%が反捕鯨の理由

  • 7

    ジョンベネ殺害事件で、遂に真犯人が殺害を自供か?

  • 8

    アレクサがまた奇行「里親を殺せ」

  • 9

    日本がタイ版新幹線から手を引き始めた理由

  • 10

    インドネシア当局、K-POPアイドルBLACKPINKのCM放映…

資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
「ニューズウィーク日本版」編集記者を募集
デジタル/プリントメディア広告営業部員を募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!