コラム

入管法「改悪」の前に目の前の難民を直視すべき

2023年06月07日(水)15時37分

さらに6月3日、法改正に反対する弁護士グループの記者会見で、柳瀬参与員と話したとする難民支援者が録音データを公開した。そこでは柳瀬氏は「どこの国だって、都合のいい方だけ来てくださいってしてる。主権国家であれば」「何とか今の法案は通してもらわないと」「(入管法を通すためなら)入管庁をプッシュすることはいくらでもする」と発言しているという。「プッシュ」とは、柳瀬氏は法案に中立的な参考人ではなく、入管庁の利益のために行動していることをあからさまに示したものだろう。

こうした発言が柳瀬氏の本心だとすれば、関係省庁と利害関係のある一個人の信念が、多くの人々の人権に関係する法案の改正に影響を与えていることになり、極めて問題があるといえる。他にも柳瀬氏は年間の対面審査について「90数人」と述べており、これは16年間で2000人以上の対面審査を行ったという国会答弁と矛盾する。入管法改正案については事実関係から多くの疑問点が浮上してきており、改めて法案の審議をやり直すべきだ。

日本とはケタ違いの許容力

ところで、柳瀬氏が述べたとされる「どこの国だって、都合のいい方だけ来てくださいってしてる」という発言は、ある意味では正しい。たとえばドイツも、一貫して善意で難民を受け入れ続けていたわけではない。90年代に旧ユーゴスラビアから大量の難民が訪れた際は、難民受け入れを厳しくするなどの対応を取っている。難民政策についての疑問は、極右政治家だけではなく左派の政治家からあがることもある。

しかしそれは、年間の難民受け入れ数が数十人の国ではなく、数万人の国で生じている現象だ。ドイツは少なくとも数万人の移民を受け入れることは、先進国として避けられない義務だと考えている。もちろんドイツだけではなく他のG7も、その国のキャパシティに応じた最低限の移民を受け入れざるをえないと考えている。

難民の数は、2022年には1億人を突破したとされる。数については国際状況によって変動はあるが、これを放置していると世界的な政治不安に直結する。こうした危機感のもとで結ばれたのが難民条約であり、条約に基づいてG7のような比較的豊かな国が難民を受け入れ、国際的な安定に貢献することが期待されているのだ。

一方日本は、そうした難民条約の批准国としての最低限の義務すら果たしていないのだ。だから以前にコラム「入管法「改正」案、成立すれば日本は極右の理想郷になる?」で書いたように、日本はそうした国際法すら無視してしまえと主張する欧州の極右の「王道楽土」という不名誉な地位を手にしてしまっている。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ第2の都市ハルキウに攻撃、広範囲に停電 

ビジネス

ECB、ロシアの軍事的ショックに備える必要=リトア

ビジネス

中国の香港経由の金輸入、12月は前月比24%減 価

ビジネス

欧州自動車販売、12月7.6%増 EVが初めてガソ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化はなぜ不可逆なのか
  • 3
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに...宇宙船で一体何が?
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 9
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 10
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story