最新記事

入管

親日家女性の痛ましすぎる死──「日本は安全な国だと思ってた」母親らが会見で涙

2021年4月21日(水)18時42分
志葉玲(フリージャーナリスト)

彼女の母親で前出のスリヤラタさんにも、日本大使館を通じてウィシュマさんの死亡後、説明を受けたが、死因も入管側の対応の詳細もわからないままだ。スリランカ現地では、ウィシュマさんの非業の死がメディアでも報じられ、日本の入管に対する批判も高まっているという。親族や記者などから、入管の施設でウィシュマさんが亡くなったことについて、質問攻めにあっているスリヤラタさんだが「自分も何も知らされていないので説明できません」と言う。「なぜ、入管はウィシュマに治療を行わなかったのか」「法務省の調査ではなく、警察が捜査を行うべきです」(同)。遺族達はウィシュマさんの遺体を引き取りに、日本を訪問することを予定しており、可能ならば上川陽子法務大臣や菅義偉首相にも面会し、本件についての説明を受けることを希望しているのだという。

shiva20210421155803.jpg
名古屋入管で収容中に亡くなったウィシュマさん(中央) 遺族提供

ウィシュマさん事件は、ブラックボックスの中で被収容者の収容や仮放免について決定され、その決定の是非について、裁判所など第三者機関の速やかなチェック機能が働きにくい、という現在の入管行政の制度的な問題に起因するものでもあろう。この問題は、国連人権理事会の恣意的作業部会でも「国際法違反」として昨年9月の時点で指摘されていたものでもあるが(関連記事)、法務省/入管側は「事実誤認」と反発、今国会で審議が行われている入管法「改正案」にも改善策を取り入れなかった(関連記事)。スリヤラタさんら遺族の会見をサポートした一人、指宿昭一弁護士は「(法務省/入管の)中間報告は遺族の方々を納得させるものでは全くありません。入管が死にかけているウィシュマさんを見殺しにしたことは明らか」と憤る。

「3月6日の午前中、脈拍と血圧が測定できなかった時点で、入管が救急車を呼んでいれば、ウィシュマさんは助かっていた可能性はあります。これ、普通の人間なら誰でもやることでしょう。その状況で何もしなかった、死なせてしまった。そんな入管にさらなる強大な権限を与える入管法の改悪など、審議してはいけないし、採決するなど許されないことだと思います」(同)

shiva20210421155804.jpg
上川陽子法務大臣(写真)の対応も国内外から問われることになる 筆者撮影

過去20年、日本の入管施設内や強制送還の最中で、ほぼ毎年のように医療面の対応の遅れや自殺などにより、被収容者が死亡してきた。ウィシュマさんのような犠牲をもう二度と繰り返さないよう、法務省/入管のスタンスが根本的に問われている。

[執筆者]
志葉玲
パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。オフィシャルウェブサイトはこちら

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

ニューズウィーク日本版 脳寿命を延ばす20の習慣
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月28日号(10月21日発売)は「脳寿命を延ばす20の習慣」特集。高齢者医療専門家・和田秀樹医師が説く、脳の健康を保ち認知症を予防する日々の行動と心がけ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

貿易収支、対米輸出が6カ月連続減 関税影響なお根強

ビジネス

NZ航空、7─12月期の赤字予想 予約低迷とコスト

ワールド

シリア暫定政府、米政権による年内の制裁全面解除に期

ワールド

トランプ氏、司法省に2.3億ドル請求 自身の疑惑捜
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない「パイオニア精神」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    増える熟年離婚、「浮気や金銭トラブルが原因」では…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中