コラム

菅政権、次は「日の丸損壊罪」を新設か

2021年01月28日(木)11時30分

国旗は国家を象徴するからこそ、反政府活動の意思表示にも使えなければならない(2020年9月14日、記者会見を終えて国旗に礼をする当時の菅官房長官) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<新型コロナウイルス拡大による医療崩壊で在宅療養死も多発するなか、なぜ今、日の丸なのか。コロナ対策失敗をイデオロギーで取り返すつもりなのか>

1月26日、自民党が党の「保守系」グループの要請に応じて、日の丸の毀損を罰する「国旗損壊罪」を新設する刑法改正案を今国会に提出することが各報道機関によって明らかになった。同改正案は日の丸の毀損に対して、「2年以下の懲役か20万円以下の罰金」を刑罰として科すというものだ。2012年にも自民党は同様の改正案を提出したが、当時野党だったことなどから廃案となっている。

こうした動きは、日本国憲法に定められた表現の自由を侵害し、市民の政治的表現に圧力を加えるものであり、到底許されることではない。

なぜ今なのか?

この法案を要請したのは、2012年にもこの改正案を主導した高市早苗ら党内右派グループだ。現在の日本はコロナ禍によって緊急事態宣言が出ており、医療崩壊も起こっている。定員が一杯で入院できず、自宅待機やホテル待機を迫られている感染者が数千人にものぼっている。医療支援と経済困窮者の支援に傾注すべきときに、こうしたイデオロギー法案に時間を割く余裕は果たしてあるのだろうか。

菅政権の支持率は、発足時から急落を続けており、現在では安倍内閣退陣時の支持率と同水準だ。政府のコロナ対策はまったく支持されておらず、頼みのワクチンもスケジュール通り進まないことが濃厚となった。したがって、内閣支持率の自然回復は見込めない。そのため、このタイミングで同法改正案を持ち出した理由は、安倍政権の岩盤支持層たる右派の支持固めではないかとも推察することができる。

「外国国章損壊罪」との同一視はできない

日本の刑法は92条で「外国国章損壊罪」を定めている。しかしこれは外国政府の請求がなければ公訴できない親告罪であり、その保護法益も諸説あるものの、いずれにせよ国際法上・外交上の利益とされている。実際は、外国政府がわざわざ他国市民による国旗損壊を罰せよと請求してくるケースは少なく、また日本の司法も「表現の自由」との観点から慎重な審理が進められ、有罪とならない場合も多い。

従って自民党の改正案は、単に既存の損壊罪に日本国旗を加えるというものとはいえない。権力者にしてみれば、自国の反政府運動を取り締まれるならばいくらでも公訴するメリットはあるし、こうした「政治犯罪」に対して日本の司法の独立は極めて脆弱であるからだ。

「国旗及び国歌に関する法律」とその運用

1999年、国旗及び国歌に関する法律が制定された際、教育現場等への押し付けが行われ、教師や児童生徒の思想・良心の自由が侵害されるのではないかという疑念について、当時の小渕首相は押し付けを行わないと答弁した。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ、今月初めの米軍による攻撃で兵士47人死

ワールド

EU、重要インフラでの中国製機器の使用を禁止へ=F

ワールド

イラン抗議デモ、死者3000人超と人権団体 街中は

ワールド

韓国、米のAI半導体関税の影響は限定的 今後の展開
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向」語る中、途方に暮れる個人旅行者たち
  • 2
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手がベネズエラ投資に慎重な理由
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 5
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 6
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 9
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」…
  • 10
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 8
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 9
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 10
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story