コラム

シンギュラリティ「任期中に来る可能性高い」 安野貴博に聞いた、AI時代を生き抜くうえで一番大事な力とは?

2025年08月29日(金)20時40分

akane_anno12.jpg

ニューズウィーク日本版-YouTube

 安野さんが作成したウェブサービスと言えば、高校の時に作った「画像に名画っぽい名前をつけるもの*」もありましたね。

*ねみんぐ!:画像をアップロードすると名画風の名前をつけてくれるというサービス。安野さんを含む当時高校生の三人が遠隔地に住みながら開発して話題になった

安野 そうですね、それも結構大きい出来事でしたね。高校1、2年生くらいの時にネットで知り合った友達と一緒に作りました。

当時は「脳内メーカー」が流行っていたんです。名前を入れると、脳内の断面図に自分の考えていることが単語で描かれて表示されるジョークアプリです。その延長線上みたいな形で、画像をアップロードするとその画像に名画風の名前と評価額が表示されるアプリを作りました。

 名画風の名前って、例えばどんなものですか?

安野 「混乱と絶望」とか。ちょっとありそうなやつを組み合わせて付けるという。

 ちょっと中二病っぽいというか、かっこいい感じなんですね。

安野 当時は「マルコフ連鎖モデル*」という、意味はそんなにつながっていないけれど文法的にはそれなりに正しくなる、それっぽいものを出す技術がありました。それを使ってタイトルを付けて、ランダムに評価額も出しました。

*マルコフ連鎖モデル:現在の状態だけに基づき次の状態の確率を決める数学的枠組みで、未来予測や解析に広く応用される

そうしたら「意外とその画像に対しては、こういった着眼点もあるのか」と予期せぬ発見みたいなムーブが起こって、「この切り口はランダムだから出てくる面白さを拾っている」などとバズったりしました。

 単なるジョークアプリではなくて、意外と深遠だったみたいな見方がでてきたんですね。

安野 深遠さを人間が見出してしまったという。深遠な単語と何か画像があるとそこから意味を見出そうとする、人間の特性が良い方向に働いたという感じです。ただのマルコフ連鎖モデルなので、画像の中身はまったく見ていないはずなのに、というところが面白いですね。

 そうなんですね。今まで挙げていただいた転機が、現在にもつながっている、今思えばこういうところが原点だったなというような、現在からの評価はありますか?

安野 ずっと同じことをやっているなと思います。「0から1」を繰り返しているということです。今回も国政政党をゼロから作って、そこから今まではなかった動き方で政治活動をしていますから。

スタートアップも、自分でプロダクト作ることも、国政政党もそうだと思うんですけれど、テクノロジーも使いながら世の中をどういうふうにしていくとよいのだろうか、どうすると問題解決できるのだろうかというのを、ずっと考えてやってきているなと思います。

 0から1に興味があるとおっしゃいましたが、1を2にすることとか、例えば科学論文だとAからA'の論文とかありますよね。そういうところには興味はありますか。

安野 科学論文だと100から101みたいな、その積み上げていくところですよね。そうですね、これはたぶん得意・不得意があると思っています。

私が得意なのは0から1のほうだと思います。それから、1から10というところも頑張ろうと思えば頑張れるけれど、おそらく100から101はそんなに向いていないタイプです。だから、それぞれの分野で必要な人がやるのがいいだろうと思っています。

プレゼンでプロポーズ?

 3つの転機のお話に出て来なかったなと思うのが、プロポーズの時に指輪ケースをパカッと開けるのではなく、マッキントッシュ(のノートパソコン)をパカッと開けたという逸話があるじゃないですか。

安野 プロポーズのときの「結婚するとよいのではないか」というスライドのプレゼンですね(笑)。たしかに、それも転機ですね。

akane_anno_10.jpg

プロポーズの話題に笑顔を見せる安野氏 ニューズウィーク日本版-YouTube

安野 黒岩(妻の里奈さん)と結婚するときに、プロポーズをするからにはその背景の様々な「なぜ結婚するとよいのだろうか」ということをしっかりと理解していただくのが筋だろうなと思いまして、何枚かのスライドを作ってご説明をさせていただきました。

 でも、パートナーの方は「指輪のパカッ」のほうも欲しかったのではないですか?

安野 それはそれで、後からちゃんとやらせていただきました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハマスは武装解除を、さもなくば武力行使も辞さず=ト

ビジネス

米経済「想定より幾分堅調」、追加利下げの是非「会合

ビジネス

情報BOX:パウエルFRB議長の講演要旨

ワールド

米の対中関税11月1日発動、中国の行動次第=UST
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 5
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story