コラム

若田光一宇宙飛行士に聞く宇宙視点のSDGs「宇宙ゴミ処理は日本がリードできる分野」

2023年06月07日(水)11時30分
若田光一宇宙飛行士

「これまで宇宙と無関係だったメーカーの技術のおかげで宇宙生活が快適になった」と語る若田氏 筆者撮影

<5度目となった今回の宇宙飛行で「デブリが増えていることを実感した」と若田宇宙飛行士は語る。宇宙環境を守りながら開発するにはどうすればよいか、そのために一般の人にできることはあるか──作家で科学ジャーナリストの茜灯里が聞いた>

21世紀に入り、人々は人間活動に起因する気候変動や科学技術の弊害を、これまで以上に考えなければならなくなりました。人類が不平等を解消し地球を守りつつ発展するのには不可欠な要素として、SDGs(持続可能な開発目標)の概念が生まれ、明文化されたのも当然の成り行きと言えます。

けれど、地球だけを見ていると、SDGsの達成は難しいかもしれません。

23年3月に5度目の宇宙飛行から帰還し、宇宙開発活動を通して人類の発展に貢献する若田光一宇宙飛行士に「宇宙視点から考えるSDGs」について聞く本企画。前編では、宇宙で開発された水再生技術が地球の災害地で役立つ可能性や、「宇宙船地球号と人類の存亡」を実感したエピソードなどを紹介しました。

後編となる今回は、「地球人として宇宙環境をいかに守るべきか」「一般人の宇宙に対する貢献」「国際宇宙ステーション(ISS)とSDGs17番(パートナーシップで目標を達成する)」などについて、話を聞いていきます。

◇ ◇ ◇

──地球人が宇宙に対して行うべきSDGs、つまり宇宙環境を守りながら開発するにはどうしたらよいのかについて伺います。若田さんは、96年の初飛行でミッションスペシャリストとしてスペースシャトルに搭乗されたときに、SFU(宇宙実験・観測フリーフライヤー)の回収という、いわば宇宙の清掃作業をされました。今後運用を終えた人工衛星がますます増え、廃棄と回収が問題になります。地球人が宇宙を綺麗に使うために、この先、地球だけでなく宇宙の環境を守るために、どんなことをしたらよいでしょうか。

非常に重要で難しい課題ですけども、宇宙を浮遊してるものは我々が宇宙で活動していくときの大きなリスクなんです。(宇宙ゴミとなった)人工衛星に衝突することによって、必要な人工衛星が機能しなくなるような可能性っていうのはあって、そういうことが実際に起きちゃってます。

私が96年に(初めて)宇宙に行ったときも、実際、打ち上げる前に、軌道上に使われなくなった人工衛星があって、それを回避するために打ち上げが20分ぐらい遅れたことがありました。

今回のフライトでは、宇宙デブリ(宇宙ゴミ:意味のある活動をせずに地球軌道上を周回している人工物。使用済みの人工衛星、ロケットや破片など)を避けるために、4回も噴射で軌道を変えているんです。デブリの衝突の可能性は12回あって準備をして、そのうち4回、噴射しました。

さらに、近づく宇宙デブリの位置情報が明確には分からなかったので、噴射をしてISSの軌道を変える余裕がなくなって、全員が乗ってきた宇宙船(クルードラゴン)に逃げ込んで、ハッチを閉めて退避をするっていうこともありました。だから、毎回宇宙に行くたびに、宇宙デブリに対応するためのアクションは増えていて、今回は軌道修正噴射の件も含めて、特に「デブリが増えているな」と実感しました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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