コラム

若田光一宇宙飛行士に聞く宇宙視点のSDGs「宇宙ゴミ処理は日本がリードできる分野」

2023年06月07日(水)11時30分

──地球観測、GPS、通信などには、地球軌道の利用は不可欠です。私たちが地球軌道を持続的に使っていくためには、どのような工夫が必要でしょうか。

宇宙ゴミの防止と状況把握が非常に重要です。JAXAも、望遠鏡やレーダーを使って、SSA(Space Situational Awareness, 宇宙状況把握)という地上から宇宙の状況を確認する取り組みをしてます。

また、宇宙デブリの除去についても、JAXAは研究開発を通して技術を培ってきました。近年は、アストロスケールさんのような民間企業がデブリ除去をする活動にJAXAも協力しています。こういった活動は、やっぱり日本がリードしていける、いくべき分野なのかなというふうに思います。

地球軌道を安定的に持続的に使っていくためのデブリ防止、デブリ除去で、日本は大きく貢献できるのではないかと思っていますし、期待をしています。

宇宙をより身近に──今はその準備期間

──宇宙に憧れはあるけれど、身近には感じられないという一般の方も多いと思います。宇宙飛行士という特別な存在ではなくても、私たちが「宇宙から地球を守る」「地球人が宇宙を守る」という視点を持つために、できることはあるでしょうか。

私は宇宙に行くという非常に貴重な経験をさせてもらってますし、もっともっと多くの皆さんが、実際に宇宙に行って、美しい地球を見ながら環境のことを考えてくださる機会が増えていくことを望んでます。だから今は、我々でそのための準備をしている期間だというふうに思っているんです。

やっぱり、宇宙に行くのはまだ危険もありますし、非常にコストもかかります。民間企業も参入して、今、宇宙観光旅行というのが始まりました。より多くの宇宙へのアクセスの手段が確保されることによって、宇宙旅行というのがより身近になってくると思います。

20世紀の初頭にライト兄弟が飛行機を発明してから、この100年で多くの人たちが航空機に乗っていろんな遠くに行ける時代になりました。宇宙へ行くアクセスの手段が増えてくれば、コストが下がってきて、もっと多くの方が宇宙に行けるはずですし、私もそうなるように尽力したいなと思っています。

──宇宙旅行が一般的になるまでは、私たちはどのように宇宙を体験できるでしょうか。

実際に宇宙に行かなくても、ソーシャルメディアを通して、我々も色々なことを発信しています。JAXAのホームページやツイッターで宇宙での色々な出来事を紹介したり、リアルタイムで宇宙から地球を見る映像を共有したりすることができる時代になっています。

アバターの技術のように、実際に宇宙にいるような模擬体験ができるテクノロジーも開発されてきました。様々な方法を提供していますので、宇宙を身近に感じていただけたらなと思っています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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