コラム

アポロ計画に果たせず、アルテミス計画に期待されること 月面探査の歴史とこれから

2022年09月06日(火)06時05分

SLS初号機に搭載された新型有人宇宙船「オリオン(Orion)」は月の周回軌道に投入され、宇宙空間に約6週間滞在した後、地球に帰還する予定です。今回のミッションが成功すれば、アルテミス2ではオリオンに4人が搭乗して月を周回。アルテミス3でも有人着陸システム(HLS)を支援します。

SLS初号機には、日本の「OMOTENASHI」や「EQUULEUS」など10機の小型探査機も相乗りします。

OMOTENASHIはJAXAが開発した世界最小の月着陸機です。合計サイズは12×24×37センチ、質量は12.6キログラムで、「Outstanding MOon exploration TEchnologies demonstrated by NAno Semi-Hard Impactor」の頭文字を取って名付けられました。

SLS初号機から分離されて4~5日で月に着陸し、この間に地球と月の間の放射線環境を計測します。着陸時には、わずか5キログラムのユニットになります。

EQUULEUSは東京大学の中須賀・船瀬研究室 (ISSL) とJAXAが開発した深宇宙探査機です。「EQUilibriUm Lunar-Earth point 6U Spacecraft」の略称で、約10×20×30センチのユニットに、3つの観測機器を搭載しています。

プラズマ撮像装置(PHOENIX)は、地球の磁気圏プラズマの全体像を紫外光で撮像。閃光撮像カメラ (DELPHINUS)は、月の裏面に衝突する小隕石が発する一瞬の光を検知して、月面に降り注ぐ小隕石のサイズや頻度を評価できます。これによって、将来の月面での有人活動や建設に対する脅威を見積もります。

ダスト観測機 (CLOTH)は、 地球から月軌道周辺までの空間における塵の粒径、分布を測定して、ダスト環境を評価します。

超小型で低コストであるこれらの探査機の活躍が示されれば、宇宙探査へのハードルが下がり、民間の参入を後押しできると期待されています。

アポロ計画の功績と課題

61年に始まったアポロ計画は、アメリカとソビエト連邦(当時)の冷戦下における国家の威信をかけた宇宙開発競争の位置付けでした。同年5月、ジョン・F・ケネディ米大統領は「1960年代中に人間を月に到達させる」と声明を出しました。

「月面にアメリカ国旗を立てる」ことが最大の任務で、69年7月のアポロ11号が史上初の月面着陸に成功。ニール・アームストロング船長が人類で初めて月を歩行しました。

アポロ宇宙船は3人乗りで、月面に下りるのは2人乗りの着陸船でした。月着陸はアポロ11号から17号まで試みられ、13号以外は成功しました。つまり、歴史上、月を歩いたことがある人は、2人×6回の12人です。

ちなみに、着陸できなかった13号は月に向かう途中で機械船の酸素タンクが爆発したため、電力、水、酸素が不足する危機的な状況になりました。けれど、乗組員とジョンソン宇宙センター(JSC)のスタッフが一丸となって問題解決に取り組み、着陸船に一時的に避難するなどの工夫をして、全員無事に地球に帰還できました。そのため「成功した失敗(successful failure)」とも評され、書籍や映画にもなりました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、ウクライナ和平案の感謝祭前の合意に圧力 欧州は

ビジネス

FRB、近い将来の利下げなお可能 政策「やや引き締

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 7
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story