コラム

高野山で初のAIセミナー=人工知能は空海の知を蘇らせることができるか

2019年08月28日(水)15時20分

物質の時代から心の時代へ。テクノロジーと仏教はどんなシナジーを起こすのか coward_lion-iStock

<歴史的、文化的価値が計り知れないとして翻訳が進められている高野山文書。人間の力だけで読み解くには果てしない時間を要する>

エクサウィザーズ AI新聞から転載

高野山文書は、全国のお寺から集まった情報の宝庫

高野山は弘法大師空海が1200年前に和歌山の山中に開いた日本を代表する聖地の一つで、高野山金剛峯寺は真言宗の総本山になる。高野山文書編纂会委員の小笠原正仁氏によると、金剛峯寺には全国の真言宗のお寺からのその時代の情報が集結しており、飢饉や災害時の支援の様子なども記載されているという。「そういう意味で高野山文書(もんじょ)は、歴史の資料として超一流。1200年間の文書をすべて解読できれば、その歴史的、文化的価値は計り知れない」と語る。

一方、飛鷹師は「真言宗の僧侶にとって弘法大師は仰ぐべき偉大な祖師。ただ檀務に追われ弘法大師が残された文章を勉強する時間がなかなか取れない憾みがある。

AIによって、弘法大師全集や高野山に残された手書き(くずし字)の文書が検索可能なテキストデータに変換されれば、日常的に弘法大師の思想に触れる機会が増え、ひいてはお大師さまの教えの理解が深まるかもしれない」と指摘した。

人力で翻訳を続けていくのは非現実的

小笠原氏によると、高野山文書編纂会は、和歌山人権研究所が高野山真言宗の支援を受けて、江戸時代の享保10年から記録されている約140年分の日並記(ひなみき)と呼ばれる文書群の翻刻を進めている。作業は、大学の研究者らを中心とした約10人ほどのチームで分担し、これまでの2年間で約240冊あるうち80冊の翻刻(古文書などのくずし字を活字にすること)をしている。

そもそも日並記は金剛峯寺の寺務日誌で、膨大な量の高野山文書群全体の中で、どこにどのような文書が保管されているかを示すファイリングシステムのような役割も果たしており、享保年間以降の文書の所在については、ほぼ記録されているという。

なのでまずは日並記の解読を進めているが、「今は翻刻スキルが高い人ばかりで作業しているが、そのスキルを未来の研究者に継承し、増やしていくことは困難で、日並記以外の高野山に存在する50万点とも100万点ともいわれる膨大な資料を人間だけで今後読み解けるようになるとは到底思えない。AIに期待するしかない」と語る。

では果たしてAIは高野山文書の手書き文字をすべて認識できるようになるのだろうか。

AIが手書き文字を認識するには、手書き文字が何と書かれているのかを示すお手本のデータが相当数必要になる。AIの専門用語で「教師データ」と呼ばれるものだ。今回のシンポジウムにAI専門家として登壇したAIベンチャー、株式会社エクサウィザーズの石山洸氏は、「解読された80冊が教師データになり得るかもしれない。やってみるだけの価値がある」と語った。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国5月鉱工業生産、予想以上に減速 小売売上高は加

ワールド

アングル:韓国で「シャーマン」人気、SNS使い現代

ビジネス

焦点:トヨタ会長に相次ぐ反対推奨、統治と認証不正 

ビジネス

国債買い入れ減額、月2兆円が有力 利上げは秋以降=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 3

    顔も服も「若かりし頃のマドンナ」そのもの...マドンナの娘ローデス・レオン、驚きのボディコン姿

  • 4

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 7

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 8

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 9

    サメに脚をかまれた16歳少年の痛々しい傷跡...素手で…

  • 10

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story