コラム

生成AIでネット広告はどう変わるのか

2024年04月25日(木)16時50分
(写真はイメージです) LinkedIn Sales Solutions-Unsplash

(写真はイメージです) LinkedIn Sales Solutions-Unsplash

<次のネット業界の覇者は誰になるのか? AI新聞編集長の湯川鶴章氏による考察を紹介する>

*エクサウィザーズ AI新聞から転載

1995年。僕はシリコンバレーで駆け出しの新聞記者だった。地元紙でインターネットという聞き慣れない言葉を見つけた。よく分からないが、何か大きな変化の兆しを感じた。書店でインターネットの関する書籍を探したが、やっと一冊、タイトルにインターネットという単語を含む本を見つけた。しかしその中身は、インターネットの前身となった米軍のコンピューターネットワークに関する記述がほとんどで、最後のチャプターにインターネットはいくつかのネットワークを結ぶ「ネットワークのネットワークだ」という簡単な説明が載っていただけだった。

サンフランシスコのダウンタウンで、インターネットに関する有料セミナーが開催されることを知った。参加者はわずか十数人だった。講師は、大手電話会社の女性幹部で、彼女によると、コンピューターネットワーク上に情報が掲載されたページのようなものが数多く登場することになるだろうという話だった。

情報が掲載されたページ。イメージしずらかった。でももしそうしたページが数多く生まれてくればくるほど、欲しい情報に辿り着くのが困難になるような気がした。手を挙げて「情報ってどんなふうに探すことになるのですか」と聞いてみた。彼女は一瞬、沈黙した。そして「とてもいい質問です。私にもよく分かりません。ただ、その方法を見つけ出した人は大金持ちになると思います」と語った。

意外にも、その方法を見つけ出した人物が近くにいた。友人の一人である日本人女性の中国系アメリカ人の彼氏が、ネット上の情報ページをカテゴリーに分類して一覧できるサイトを作っていた。彼氏の名前はジェリー・ヤン、サイトの名前はYahoo! だった。セミナー講師の予言通り、Yahoo!を開発したジェリー・ヤンはその後、大金持ちになった。

情報ページはwebページと呼ばれるようになりネット上に溢れ出した。やがてYahoo!も人力でカテゴリー分けすることが物理的に無理になり、情報を検索する技術の開発競争が始まった。

頭角を現したのはGoogleと呼ばれるサイトだった。今ならWebページに何が書かれているのか、どのページが重要なのかは、言語AIが認識してくれる。しかし当時の言語AI技術は未発達で、使い物にならなかった。なのでGoogleは言語AIに一切頼らず、Webページの重要性を被リンクの数で判断するというシンプルな方法を採用した。多くのページからリンクが貼られているページには重要なことが書いてあるに違いない、という考え方だった。

この方法が非常にうまくいった。Googleはあっという間にに人気サイトの1つになった。ただマネタイズの方法が不明だった。ページ上に所狭しとバナー広告が張り巡らされているYahoo!と異なり、Goolgeの最初のページにはGoogleのロゴと検索窓があるだけ。バナー広告は一切なかった。「マネタイズをどう考えているのか」という質問にGoogleの経営者は「今はとにかくアクセスを集めるとき。マネタイズ方法はあとで見つかると思う」と語っていた。

そして見つかったマネタイズ方法が、検索連動型広告と呼ばれるものだった。ユーザーは欲しい情報を検索するのに検索キーワードを検索窓に入力した。このキーワードに関連する広告を表示するというのが、検索連動型広告だった。広告掲載の順番と広告料金は、特定のキーワードに広告を出稿したい広告主によるオークションの形式で決まった。

この検索連動型広告は抜群の広告効果を発揮し、Googleはインターネットの覇者となった。

それから20年。言語AIが大きく進化した。被リンクの数でページの重要性を推測しなくても、言語AIがページの内容や重要性を把握できるようになった。ユーザーが検索結果のページに掲載されるリンクを上から順にクリックし、リンク先のページを読んで、その中から必要な情報を探し出さなくても、チャット型AIに質問するとチャット型AIが答えを直接返してくれるようになった。

人力で情報をカテゴリー分けしていたYahoo!から、被リンクの数をベースにした技術で情報の検索を可能にしたGoogleのキーワード検索へ情報検索の主役の座が移行したように、今またキーワード検索からチャット型AIに主役の座が移行しようとしている。

問題はマネタイズ方法である。Googleが検索連動型広告というマネタイズ方法を見つけ出すまでにしばらくかかったように、チャット型AIもまだマネタイズ方法が見つけられていない。今、ChatGPTを初めとする多くのチャット型AIサービスが、月額20ドルのサブスクリプションを収入源にしている。恐らく、そうしたシンプルなサブスクとは別のマネタイズ方法が出てくるのだと思う。シンプルなバナー広告でもないと思う。検索連動型広告よりもさらに広告効果が優れていて、情報を提供したい企業と、その情報を求めている人をより正確に結びつけるような仕組みが、今の言語AIでできるのではないだろうか。

だれがその仕組みを思いつくのだろうか。恐らくGoogleではないと思う。Yahoo!がバナー広告の収益を捨ててまで検索連動型広告に乗り移れなかったように、Googleも同社の主な収入源である検索連動広告を捨ててまで、新しいマネタイズの仕組みに挑むことは難しいと思う。いわゆるイノベーションのジレンマと呼ばれる現象だ。

となると注目すべきはチャット型AI周りのスタートアップ企業だ。そう遠くない将来に、どこかのスタートアップがチャット型AIの新たなマネタイズの仕組みを見つけ出すことだろう。そのスタートアップが次のネット業界の覇者になるのか。Googleのようなテック大手がそのスタートアップを買収するのか。それは分からない。しかしその仕組みを思いついた人が今回も、「大金持ち」になるのは間違いないだろう。今回もだれか身近な人がその仕組みを思いつかないだろうか、と期待している。

だれかがその仕組みを思いついたとき、広告、マーケティング業界が激変する。それは多くの人にとってチャンスでもあり、リスクでもある。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

最近の急速なウォン安・円安、深刻な懸念共有=日韓対

ワールド

米戦略石油備蓄の第1弾、来週末までに供給 8600

ビジネス

日立とGEベルノバ、東南アジアで小型モジュール炉導

ワールド

米商務省、AI半導体輸出の新規則案を撤回 公表から
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 3
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈祷」を中国がミーム化...パロディ動画が拡散中
  • 4
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 5
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 6
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 7
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 8
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    『ある日、家族が死刑囚になって』を考えるヒントに…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story