コラム

2023年秋、AI業界勢力図① Nvidiaの独り勝ち

2023年10月17日(火)16時20分

その上は、クラウドコンピューティングのレイヤー。元々はコンピューターを自社の敷地内で管理する企業が多かった。しかし最近ではハードウェアやセキュリティ技術の急速な進歩を受けて、最新のコンピューターを自社で購入し続けるよりも、クラウド事業者のサービスを利用して、重量制の利用料金を支払う企業が増えている。そのほうが最新のコンピューターや最新のセキュリティ技術を利用できるメリットがあるからだ。

クラウドのレイヤーでは、Amazon、Microsoft、Googleが3強。Amazonといえばネット通販ビジネスが有名だが、実はAmazonはネット通販ではほとんど儲けを出していない。少しでも儲けがでれば儲け分を最新技術や値引きに投入するからだ。一方でAmazonのクラウドは、同社にとって大きな収入源になっている。

その上のレイヤーがAI言語モデルのレイヤーになる。AI言語モデルは、クローズドとオープンソースの2つに大別される。OpenAIのGPT-3やGPT-4、Googleの PalM2などのモデルは、クローズドモデルだ。つまり一般企業がこれらのモデルを利用すれば、使ったデータ容量に応じた料金をOpenAIやGoogleに支払わなければならない。

一方でオープンソースのモデルは、研究者などは自由に使えるタイプのライセンス契約が多いが、Meta(Facebook)のLlaMA2は一定限度までなら営利企業でも無料で利用できるのが特徴だ。

このAI言語モデルが司令塔になり、画像認識や音声認識などの他のAIモデルや、AIツールを操作する。言語モデルの上のレイヤーにそうしたAIモデルやツールのレイヤーが存在する。そして、そうしたAIモデルやツールを組み合わせて、各種サービスや製品、アプリが出来上がる。それが一番上にレイヤーだ。

これがレイヤーごとに見たAI業界の勢力図だ。こうしたレイヤー分けは他の技術や業界にも存在し、それぞれの技術や業界が成熟していくにつれて、激戦地域が下のレイヤーから上のレイヤーに上昇してく傾向にある。

例えばインターネット業界の場合だと、一番下のレイヤーにはパソコンや基本ソフトのレイヤーが存在する。30年ほど前は、MacとWindowsのどちらが優勢かというシェア争いがニュースになったものだ。業界が成熟してくると、パソコンや基本ソフトのシェアが固定化され、シェア争いを気にする人がほとんどいなくなった。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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