コラム

メタバース普及のロードマップ予測。カイフ・リー著「AI2041」から

2021年11月17日(水)14時53分

その後、関連する技術は急速に進化し、2015年には、VRやARデバイスが数多く登場した。しかしリー氏によると、MicrosoftのHoloLens以外は「ほぼすべて失敗」。HoloLensは他社のVRデバイスに比較すると性能が飛び抜けてよく、また1台579グラムと軽量化に成功した。ただし価格は一台3500ドルと高額で、「見た目が不恰好な大型水中メガネのようだった」(同氏)ので、一般消費者にまで広く普及しなかった。

どの程度普及すれば、一般消費者向け市場で成功したと呼べるのだろうか。リー氏はApple Watch程度と考えているようだ。Apple Watch自体は、それほど普及しているように見えないが、Apple Watchの登場に刺激を受けた腕時計型デバイスが数多く登場している。確かにここまでくれば、腕時計型ウエアラブルデバイスは一般消費者にまで広く普及したと言えるのかもしれない。

そういう尺度で見れば、リー氏にとってGoogleグラスやSpapchatのSpectaclesも「失敗」。ただしその後も、関連技術は着実に進化を続けている。Oculusはレンズの厚さが1cm程度の試作品の開発に成功したし、リー氏によると「(このペースなら)2025年までに一般大衆向けのXRグラスが市販されるだろう」という。

同氏が注目するのは、Appleだ。AppleはこれまでにiPodに始まり、iPhone、iPadと、新しいデバイスの市場を生み出してきた。AppleがARグラスを開発中といううわさや報道があることから、同氏はXRグラスの一般大衆向け市場は、今回もAppleが開拓する可能性があるとしている。

まずは2025年前後にAppleがARグラスを発売するころが、一般大衆向けメタバースの最初のフェーズである、と同氏は考えているようだ。

映像はコンタクトレンズで

そして次のフェーズは2030年ごろ。イヤホンの進化が大きなマイルストーンになると同氏は指摘する。骨伝導のような一日中つけていても不快感のないイヤホンの技術に加え、omnibinaural immersive soundsと呼ばれるような臨場感あふれる録音技術が進化。一日中イヤホンをつける人が増えてくる。

そして2041年までにはメガネではなく、コンタクトレンズにコンテンツが映し出さされるようになる、と同氏は指摘する。

このコンタクトレンズとイヤホンの組み合わせを同氏は「スマートストリーム」と呼ぶ。一日中装着していても違和感がないので、ほとんどの人が常時装着することになる。そうなって初めて「スマートストリームがスマホに取って代わる」と同氏は予言する。

そのころになると、体への衝撃を体感できるハプティック(触覚技術)グローブやハプティックスーツも改良されるだろう。朝日の暖かさや、微風の涼しさ、でこぼこ道を自転車で走ると感じる臀部への衝撃なども、ハプティックスーツで再現できるようになる。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story