コラム

メタバース普及のロードマップ予測。カイフ・リー著「AI2041」から

2021年11月17日(水)14時53分

メタバースで金メダリストとフェンシングをするザッカーバーグ(右)。社名を「メタ」に変更した際のデモンストレーション Facebook/REUTERS


■この記事のポイント

・メタバースがスマホを代替するのは2040年

・2025年にAppleが道を拓く

・ゲーム型メタバースは暗号通貨で一代経済圏に

*エクサウィザーズ AI新聞から転載

Facebookが社名をMetaに変えたこともあり、最近またも注目を集めているメタバース。ザッカーバーグ氏は社運をかけての挑戦のようだが、果たしてメタバースは来るのだろうか、来ないのだろうか。

日本語未訳の米ビジネス書のベストセラーに『AI2041』という本がある。その本の中で著者のカイフ・リー氏がメタバースの普及時期と可能性について予測している。


同氏は、Googleなどの大手テック企業の幹部を経験したAI専門家。深い技術理解に裏付けられた未来予想なので根拠がしっかりしている。ただ専門知識のない読者に分かりづらい部分もあるので、私なりに周辺情報を交えながら同氏の主張を紹介したい。

MR(ミックスリアリティー)の面白さ

ちなみに同氏によると「2041年の予測」としたことにはあまり深い意味はなく、「41」という字面が「AI」に似ているから、ということらしい。なので「2040年前後」という意味ととらえていいだろう。

まず本の中では、同氏はメタバースという表現を使わずにVR、AR、MR、XRという表現を使っている。

VRというのは仮想現実のこと。一方ARというのは現実の風景の中にテキストや静止画、動画をオーバーラップさせる技術のことだ。一時期大流行したポケモンGOは、目の前の風景の中にポケモンのイラストを映し出す機能があるが、あれがまさにAR。

MRは、AR同様にリアルの風景の中に動画などのコンテンツを映し出す技術だが、ARと違って現実の状況が仮想コンテンツに反映される。例えばMRグラスを通して見ていると、現実空間で現実の自動車が、仮想ポケモンの右側を通ろうとする。仮想ポケモンは現実の車にひかれないように左側に飛び移る。そんな風な表現ができる。

また現実の人間の発言内容を仮想のアバターが理解し、返答する。それを聞いて、現実の人間がまた何かを言う。そうしたやりとりもできるようなる。

現実のレイヤーと仮想のレイヤーを単純に重ねているのではなく、現実の変化に合わせて仮想が変化し、現実と仮想が混じり合うような表現ができる。現実と仮想がミックスされるので、MR(ミックスリアリティー)と呼ばれている。

メタバースという言葉は「仮想空間」という意味で使われることが多いので、今のところはVRのことだけを指す。しかし将来のMRは、現実と仮想がミックスするようになるので、これもまたメタバース、仮想空間の一種と呼んでもいいのだと思う。

ちなみにXRとは、VR、AR、MRの総称だ。

実際にはVR研究の歴史は古く、最初にVRが試されたのは、もう何十年も前の話になる。当時のVRヘッドセットはヘルメット以上に大きく重かったし、大型コンピューターに有線で繋がれていた。あまりに不恰好で高価なので消費者向けに発売されることはなく、化学の実験に利用される程度だった。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story