コラム

脳への刺激で運動能力を高めるヘッドホン、Halo Sport

2019年12月17日(火)17時41分

脳の運動皮質に少量の電気刺激を与えることでパフォーマンスがアップ? haloneuro.com

エクサウィザーズ AI新聞(12月10日付)から転載

「1回のトレーニングで3回分の効果があるように思う」。元米海軍特殊部隊コマンダーのMark Divine氏はそう絶賛する。脳への刺激で運動能力を高めるヘッドホンHalo Sportを開発したHalo Neuroscience社によると、このヘッドホンは反復練習で脳が学習する際の効果を高め、アスリート以外にも音楽家や一般消費者の身体的学習にも効果があるという。現在、クリスマスキャンペーンで同社サイト上で299ドルで販売中だ。

product.jpg
haloneuro.com


同社のサイトによると、このヘッドホンは脳の運動皮質に少量の電気刺激を与えることで、脳をハイパー・プラスティシティ(超可塑性)と呼ばれる状態にさせるという。可塑性とは変更が可能という意味。人間の脳は子供のときに回路が形成されれば大人になると変更できないと考えられていたが、10年ほど前から変更可能だということが分かってきている。同社によると、このヘッドホンを20分ほど装着すれば、脳の回路が比較的簡単に組み変わる状態になるらしい。その状態で身体的な反復練習すれば、普段より少ない回数での学習が可能になるという。下の動画は水泳のJamal Hill選手のHalo 体験談。コーチが「驚きだ。結果がすべて物語ってくれている。それを証明できるデータもある。大会で6秒もタイムを縮めた。こんなの聞いたことがない。ショッキングでさえある」と語っている。


同社は、15年以上のリサーチと実験、4000人以上の研究者による審査を行なっており、安全性と効果を確認しているとしている。同社のサイトに掲載されている参考文献には次のようなものがある。スプリント・サイクリングのパフォーマンスが17%向上、ランニングの忍耐力が15%向上、ピアノの練習で速度と正確さが30%向上、3万2000回以上のセッションでも重度な副作用なし、ジャンプ力が11%増加、問題解決能力が25%アップ、一度に複数の仕事をこなす能力が28%アップ、医学生の外科手術スキルが30%アップ、姿勢が5%改善、手の器用さが10%アップ、など。

米frontiers誌のTranscranial Direct Current Stimulation and Sports Performanceという記事によると、「電気刺激は50年以上も研究されてきており、効果は人や行為にもよるが、電気刺激は身体能力を高める可能性を持つと断言しても問題があるとは言えない」と、かなり周りくどい言い方ながらも、効果を認めている。ただ実験室の中での安全性は認められているものの、健常者が長期間に渡って繰り返し使用することの安全性はまだ確立していないと警告している。またスポーツ選手が使用する上での倫理的、法律的な意味について議論があることも紹介している。

<参考記事>人類の意識進化を促進。脳への直接刺激技術にブレークスルー、10年以内の実用化目指す
<参考記事>脳神経を制する者は身体を制す、ニューロモジュレーションの現状と未来

【筆者からのお知らせ】少人数制勉強会「湯川塾」の塾生募集中

20191224issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月24日号(12月17日発売)は「首脳の成績表」特集。「ガキ大将」トランプは落第? 安倍外交の得点は? プーチン、文在寅、ボリス・ジョンソン、習近平は?――世界の首脳を査定し、その能力と資質から国際情勢を読み解く特集です。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、債券発行で計40億ユーロ調達 応募倍率25倍

ビジネス

英財務相、予算案に関する情報漏えい「許されず」

ワールド

中国外務省、英国議会からの情報収集「興味なし」

ワールド

水産物輸入停止報道、官房長官「中国政府から連絡を受
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story