コラム

脳神経を制する者は身体を制す、ニューロモジュレーションの現状と未来

2019年12月10日(火)12時50分

脳へ刺激を与えると同時にデータ収集もでき、理想的な研究プラットフォームになり得る? mr.suphachai praserdumrongchai-iStock

<神経組織を刺激することで鬱やてんかんの治療もできれば、記憶力・集中力の向上など能力開発の一助となるデバイス開発も進むニューロモジュレーション。その期待値からすでに巨大ビジネス化は確実か>

エクサウィザーズ AI新聞から転載

耳につけるだけで心が落ち着くイヤホンから、額につけるだけでストレスを軽減できる小型デバイスまで、神経組織を刺激し、その活動に干渉するニューロモジュレーションの領域が、ここにきて急速に進化している。

Yukawa191209_6.jpg

シリコンバレーで開催されたTransTech Conference2019に登壇したMathew Markert医師は、ニューロモジュレーション研究の現状と未来への展望を語った。この分野の研究が進めば、将来的にはボタン一つでリラックスできたり、超人的な能力を持てるようになるかもしれないという。ただこの領域でもやはり、データとAIの活用がカギとなりそうだ。

Yukawa191209_7.jpg
Yukawa191209_2.jpg

ニューロモジュレーションには、経頭蓋直流刺激(tDCS)、経頭蓋磁気刺激(TMS)、迷走神経刺激(VNS)など、いろいろなタイプがある。直流電流、交流電流、磁気、近赤外線、超音波など、与える刺激はいろいろあるが、どの刺激でも医療用としては、鬱やてんかん、痛み緩和などに用いられることが多い。一方、消費者向けのデバイスとしては体内に埋め込む必要のないウエアラブル機器としての開発、市販化が進んでいる。消費者向けデバイスは、リラックス効果や、認知能力や、記憶力、スポーツのパフォーマンスの向上などをうたっているものが多いようだ。

人類の意識進化を促進。脳への直接刺激技術にブレークスルー、10年以内の実用化目指す=TransTech2019から」の記事の中で、Jeffery A. Martin博士が超音波による脳への刺激こそが人類の意識を進化させる技術だと確信した話を紹介したが、Markert医師も焦点式超音波療法には高い期待を寄せているという。「超音波で最もエクサイティングなのが、弱い周波数で分子の薬を放出させる方法。狙ったところだけに効果を出せるので、可能性にワクワクしている」と語っている。

廉価版デバイスが可能な直流電気が一足先にプラットフォーム化?

ニューロモジュレーションの現状と未来について語るMarkert医師の話を聞いて、個人的に興味を持った話の一つが直流の電流を脳に流すtDCSだ。

同医師によると、tDCSはコストが低く、リスクも少ないのがメリット。一方で、脳全体への刺激になるので、脳の特定の場所をターゲットできないというデメリットもある。

医療用の機器としては、うつや、脳梗塞の後遺症の改善を目的としたものがあり、「そのメカニズムがまだ完璧に解明されたわけではないが、とても大きな可能性を感じる」と同医師は語る。

消費者向けには、スポーツ・パフォーマンスや、認知能力の向上に対する効果が期待されている。また同医師によると「例えば何かを学ぶたびに脳を刺激して興奮を促進すれば、学ぶことが楽しくなる。そうなれば学習スピードが向上するという研究結果もある」という。

小型電池で動くので米国では消費者向けに20ドル程度の廉価版小型デバイスが既に多く発売され、使用方法を解説するYouTube動画も多くアップされているという。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政権、ベネズエラ内相と接触 マドゥロ氏拘束前から

ワールド

ウクライナ和平交渉団が米国入り、トランプ政権高官と

ワールド

イラン指導者ハメネイ師、トランプ氏がデモ扇動と非難

ワールド

欧州8カ国に10%追加関税、トランプ氏表明 グリー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向」語る中、途方に暮れる個人旅行者たち
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 5
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 6
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 8
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 9
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 10
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story