コラム

高野山で初のAIセミナー=人工知能は空海の知を蘇らせることができるか

2019年08月28日(水)15時20分

AI研究に役立つ空海の教え

実は石山氏は、空海が書いた書物を複数冊読んだことがあるくらい空海の大ファン。空海の教えが、AI研究に役立つという信念を持っているという。

「心理学の父と呼ばれるフロイトは、イド、エゴ、スーパーエゴという概念で人間の心理を説明しようとした。イドがバイオ(生物的)、エゴがサイコ(心理的)、スーパーエゴがソーシャル(社会的)と、人間の心理が3段階に分けられると理解すると分かりやすい。同じく、空海も人間の低次~高次の心理状態の変遷に着目し、「十住心論」という理論を確立した。動物的な心理段階から始まり、儒教、道教、小乗仏教、大乗仏教、天台、華厳、真言密教と段階的に成長していくというモデルだ。AI研究は、このフロイト的な心理学と空海的な仏教から影響を受けてきた歴史的な背景があり、"考えることについて考える"という人間特有の高次の思考のモデル化は、ディープラーニングの次に挑戦すべき分野としても着目されている。現在、AI研究では、STEM教育(科学、技術、工学、数学)と同時に、ELSI教育(倫理、法律、社会)の重要性も増しており、1200年前から両者を横断して捉えてきた空海の教えは現代でも非常に参考になる」と指摘。また「AI研究の中のコネクショニズム(データの世界)は空海が言うところの胎蔵界的、シンボリック(モデルの世界)は空海が言うところの金剛界的と見ることができる」と解説、AI研究と空海の教えの共通点をいくつか示した。

飛鷹師らによると、AIシンポジウムは今後も継続して開催したい考えだという。飛鷹師は「高野山は宣教師フランシス・ザビエルの書簡に『中世日本の六大学』と報告されたように長い学問研究の歴史を有し、高野版と呼ばれる出版事業も盛んだった。知の発信拠点として、AIのような最先端技術のシンポジウムを開催することは意義がある」と語っており、テクノロジー企業との協力関係の拡大にも意欲的だ。

物質の時代から心の時代へと社会が変化していると言われる中で、仏教は今後、社会の中でどのような役割を果たすことになるのだろうか。テクノロジー企業と仏教界とはどのように交わっていくのだろうか。今後の高野山の動きに注目したい。

20190903issue_cover200.jpg
※9月3日号(8月27日発売)は、「中国電脳攻撃」特集。台湾、香港、チベット......。サイバー空間を思いのままに操り、各地で選挙干渉や情報操作を繰り返す中国。SNSを使った攻撃の手口とは? 次に狙われる標的はどこか? そして、急成長する中国の民間軍事会社とは?

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 8
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story