コラム

健康経営は長期的視点で=米Amazonなど3社が合弁会社設立

2018年02月02日(金)16時00分

本社と同じく健康管理も未来型で──熱帯雨林を再現したアマゾンの新オフィス(米ワシントン州シアトル) Lindsey Wasson-REUTERS

AI新聞から転載


Amazon、Berkshire Hathaway、JPMorgan Chaseの3社が、3社の米国内従業員のための独自のヘルスケア制度を立ち上げると発表した。

発表文によると、利潤追求からくる弊害のない独立した組織にする計画で、まずはテクノロジーを駆使して簡単で質の高いヘルスケアを低コストで提供するという。

Amazonのジェフ・ベゾス氏は、「困難な挑戦かもしれない。成功するためには有能な専門家と、初心者のような気持ち、長期的視点が必要だと考えている」と語っている。

詳細は明らかになっていないが、Amazonが参画するのだから、ウエアラブル機器を使った予防から、治療のための医療施設、健康保険などのファイナンスの仕組みなど、包括的な取り組みになる可能性が高い。健康データから医療データ、金融データまでも一括で処理するのは、当然AIになるだろう。どのようにシステムが設計されるのか。興味深いところだ。

しかし大事なのは単なるコスト削減ではなく、この取り組みが何を目指すのか、というところだろう。注目すべきは発表文の中にある「利潤追求からくる弊害」「長期的視点が不可欠」という文言だ。

長期的視点が欠如した、利潤追求からくる弊害って、どういうことを言ってるのだろうか。

例えば「〇カ月で〇kg痩せる!」といった痩身プログラムの宣伝。もちろん太り過ぎの人が痩せるのはいいことだが、〇カ月で痩せることよりも、その後もリバウンドせずに健康なレベルの体重を維持するのが大事なはず。

ところが短期の利潤を追求するプログラムなら、〇カ月後にリバウンドするかどうかは関係ない。いやリバウンドしてくれたほうが、再度痩身プログラムに挑戦してくれるので利益になるかもしれない。

整体院でも同じだ。肩こり腰痛を防ぐには、食事、睡眠、運動などのライフスタイルの改善が効果的だ。しかしそうしたライフスタイルの改善を勧めるよりも、ライフスタイルはそのままで何度も通院してもらうほうが、利益追求の目的に沿っている。

健康ビジネスが短期的な利潤追求モデルである限り、医療費高騰の問題に対する抜本的な解決策にはなりえないのではないか。

発表文にはそこまでは書かれていないが、3社の問題意識はそこにあるんじゃないかと思った。

今までのやり方ではできなかった、より低コストで、より本当に社員を健康にさせることのできる包括的な仕組みが、AIを使って実現するのか。民間企業が先陣を切って作り上げる新たなヘルスケアの仕組みが、米国社会全般に普及するのか。日本にまで波及するのか。

この壮大な社会実験に、注目しておきたい。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、米の半導体貿易政策を調査 「差別的扱い」 通

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対

ワールド

中国が首脳会談要請、貿易・麻薬巡る隔たりで米は未回
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story