コラム

タリバンと中国共産党が急接近する必然の理由

2021年09月21日(火)15時30分

毛沢東もケシ栽培と農村中心戦略で勢力を拡大した CARLOS GARCIA RAWLINSーREUTERS

<アフガニスタンの「新政権」を中国が事実上容認するのは両者に驚くほど類似点があるからだ>

イスラム原理主義を信奉する神学生をルーツとするタリバンがアフガニスタン全土をほぼ掌握した現在、彼らは国際社会からの国家承認を切望している。

いち早く事実上容認しているのは、国連安保理常任理事国の中国。急接近している背景を探ると、両者に多くの類似点がある。

第1に、中国共産党とタリバンは思想の面で本質的に近似している。中国共産党は、共産主義以外の思想と哲学が中国に根を下ろして大きく成長するのを絶対に許さない。キリスト教やイスラム教も名目上は存在するが、限りなく共産党の下位組織と化してほぼ原形をとどめていない。

古代から存続してきた多くの宗教施設も建国直後から取り壊され、現在もなお継続されている。「宗教の中国化」も習近平(シ ー・チンピン)政権だけが強力に推し進めているのではなく、初代の指導者・毛沢東時代からの伝統を踏襲しているにすぎない。

タリバンも同様だ。イスラム社会の多様性を一切許容せずに彼らが解釈する唯一絶対の「イスラム」だけが正統とされている。事実、以前に政権の座に就いたときにはシーア派などの少数派を公開処刑して弾圧した。また、人類の文化遺産であるバーミヤン大仏を「偶像」崇拝だとして爆破して世界に衝撃を与えた(その仏教遺跡が眠る地の鉱物に、中国が触手を伸ばしている)。

タリバンが独自に解釈するイスラム法も中国共産党からすれば「宗教」の範疇に入るが、両者の利益が衝突しない限り、相手を利用することは可能である。

第2に、両者の成長を支えた経済的基盤が共にケシ栽培だ。中国共産党は1935年秋に陝西省北部の延安と内モンゴル南部のオルドス高原に逃亡してきた直後からケシを栽培し始めた。アヘンに加工してモンゴルとライバルの国民党支配地域に転売し、1950年まで莫大な軍資金を得ていた。そして麻薬の中毒者が増えたのも支配階級が腐敗しているからだと、責任を国民党とモンゴル社会に転嫁した。

タリバンの資金もケシ栽培に大きく依存している。彼らはアヘンをカーフィル(異教徒)に輸出して欧米社会を疲弊させることを躊躇しない。前回首都カブールを制圧した際もその撲滅を約束したが、国際社会を欺く方便にすぎなかった。今回も同様の約束を標榜しているが、当然、国際社会からの経済的支援を条件とするだろう。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story