
ベトナムと日本人
教育熱心なベトナム家庭が日本に求めるもの

教育は「最大の投資」であるという信念
ベトナムでは、親たちは子どもの将来を賭けて教育に資源を投じる文化が根強くあります。これは私が国際交流基金の事業『日本語パートナーズ』で実際にベトナム ハノイ市の公立中学校・高校に派遣され、日本語と日本文化を学生たちに教え、また父母会に参加し分かったことです。国レベルでも、教育政策への注力が顕著です。例えば、2025年3月時点で、ベトナム政府は教育・訓練に対して国家予算の 20% を充てる意向を示しています。また、多くの企業や個人投資が教育分野に流入しており、2024年6月までに 605件、総額45億7,000万ドル に上る外国資本の教育プロジェクトが誘致されたとの報道もあります。
こうした背景の前提があるため、家庭レベルでの教育熱は単なる嗜好ではなく、国民的な文化・期待となっています。ベトナム人は、教育への投資こそが家族の未来を変える最良の方法だと信じています。このような声は、ベトナム各地で教育を目的とした出費が日常であることを如実に示します。
日本語学習と「日本への道」の期待
英語がグローバルスタンダードとされる中で、ベトナムにおいて日本語を学ぶ若者が増えているのは興味深い傾向です。それに伴い都市部の中学校や高校で日本語を選択科目に入れる学校が増えています。それはアニメ・マンガなどの文化的動機だけではなく、日本で働き、学ぶ機会を得たい という実践的志向が背景にあるからです。
加えて、国内では「家庭教師(gia sư)」市場も盛んです。ベトナムでは多くの家庭が教科補習や受験対策のために家庭教師サービスを利用しています。また、国際学校の生徒向けに「バイリンガル家庭教師(gia sư song ngữ)」を謳うサービスも普及しており、家庭で英語併用授業を行うニーズの強さがうかがえます。これらは、ベトナムの家庭が 単なる教科の補い を求めているのではなく、国際環境で通用する語学力・学力を獲得したいという意図があることを示唆します。
日本留学・就労への期待像
教育熱心な家庭が日本に期待するのは、ただ学ぶことだけではありません。「学んだ後のキャリア」までを見据えた道筋を求めています。理想像としては、規律・勤勉さ、安全性、技術教育の質といった点が挙げられます。
親の声としては、次のようなものがあります
"Tôi muốn con trai mình học ở Nhật Bản, nơi mà kỷ luật và tri thức kỹ thuật được coi trọng."(私は息子に日本で学ばせたい。そこでは規律と技術知識が重視されているからです)
このような期待は、「単なる留学経験」ではなく、帰国後や滞在中に得た経験を将来につなげたいという志向性を感じさせます。
ギャップ・課題として見られる現実
ただし、理想と現実の間にはいくつかの壁があります。
• 語学の壁:日本語を十分に習得できず、学業や就業で苦戦するケース。
• 学費と生活費の重圧:留学・滞在費用が家庭にとって大きな負担となる。
• 就業機会の不透明さ:留学後、日本国内・または帰国後に期待通りの職を得られるかは保証されない。
また、ベトナム国内における高等教育投資の効率性も指摘されています。大学教育分野への予算配分が低く、教育の質向上が追いついていないという批判もあります。
日本に求められること
このような背景を踏まえると、ベトナムの家庭が日本に求めるのは 「学んだ後も道が見える教育」 です。
これをより安定した進路にするには、具体的には、以下のような点が鍵となると私は考えます。
1. 実践的な連携教育:文系・理系ともに大学・専門学校が日本企業との連携プログラムや共同研究、インターンを提供する。
2. 明快なキャリアパス:留学や卒業後の就職支援を充実させる仕組み。
3. 奨学金・支援制度:経済的負担を軽減する公的・民間の支援を厚くする。
4. 言語・文化サポート:語学指導・生活ガイダンス・異文化適応支援を体系化し、学生が早く身に付けやすくする。
結びに
教育に全力を注ぐベトナムの家庭の思いは、日本にとっても学び直す価値があります。彼らが日本に求めるのは、単なる教養や学歴ではなく、未来を切り拓く力です。現地データと親の声を交えたこの記事が、「なぜベトナムの家庭は日本に期待を託すのか」を、皆様によりリアルに伝える一助となれば幸いです。

- ヨシヒロミウラ
ベトナム在住。北海道出身。武蔵大学経済学部経営学科卒業。専攻はマーケティング。2017年に国際交流基金日本語パートナーズとしてハノイに派遣。ベトナムの人々と文化に魅了され現在まで在住。現在進行形のベトナム事情を執筆。日本製品輸入商社と人材紹介会社に勤務。個人ブログ: ベトナムとカンボジアと日本人 X: @ihiro_x Threads: ihiro_x