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農・食・命を考える オランダ留学生 百姓への道のり

森田早紀|オランダ

年間800万株を育てる胡蝶蘭生産者を訪ねる

(筆者撮影 2022年4月 Ter Laak Orchidsにて)

ドーンと大きく存在感抜群の胡蝶蘭。

花が縦何列にも綺麗に並んだ胡蝶蘭。

そんなイメージのある胡蝶蘭が、大量生産されている場面を想像したことはありますか?

 

ここはTer Laak Orchids、オランダの主要都市・ロッテルダムとハーグの間に位置する町Wateringenにある、世界最大級の胡蝶蘭生産者だ。

17.5ヘクタールの温室で、なんと年間800万株もの胡蝶蘭を育てているそうだ。

英語で「胡蝶蘭」は「Orchid」、Ter Laakはこの会社を経営する兄弟の苗字。そう、ここは1954年に創設された家族経営の会社で、今は第二世代目。2018年には国際園芸家協会の「International Grower of the Year」(今年の国際園芸家)にも選ばれた、ただものではない会社だ。

胡蝶蘭の生産は、他の花卉や野菜等と比べて生育時間が格段と長い。培地で育てた苗を移植してから、出荷可能な状態に仕上げるまでに70週間ほどかかるとか。

そもそもその前に、7~10年もの年月をかけて品種開発がなされている。

いざ売るぞ、となったときに、どのような種類の花がトレンドなのかを予測するのは困難だ。数種類だけに賭けて、ようやく出来上がった70週間後にはその種類が全く市場で人気がなかった、ということもあり得る。

リスク分散をするために、Ter Laak Ochidsでは200品種ほど育てているらしい。

多品種を育てる理由には他にも、病害虫が数種類の品種を襲ったときのリスク分散、そしてより多くの人々のニーズを満たすため、というものもある。

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(筆者撮影 2022年4月 Ter Laak Orchidsにて。Tokyoという名のついた胡蝶蘭)

さて、オランダでは土地の価格の高騰が問題になっていて、特にアムステルダム・ロッテルダム付近は平均以上だ。必要面積を抑えるために、温室の下にオフィスを設けて2階建て構造にしたというTer Laak Ochidsだが、そもそもなぜ、この高価な立地場所を選んだのか。

まず一つが労働力。ロッテルダムやハーグなどの大都市に近いため、人を集めやすい。ちなみに今は185人の従業員が働いているそうだ。

また、ヨーロッパのハブ港・ロッテルダムや、世界最大の花市場・アールスメールに近く、輸送に都合がいい。Ter Laak Ochidsで育った胡蝶蘭は、オランダ国内だけでなく欧州各地・欧州外にも販売されるのでなおさらだ。

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(筆者撮影 2022年4月 届け先別に包装される)

17.5ヘクタールもの温室はエネルギー代がバカにならないだろう、と思ったが、ここにも工夫がなされているらしい。新設された5ヘクタールの温室のガラス張りの天井には特殊な設計がされていて、太陽光が一直線上に集まるようになっている(3Dのレンズとは違い、2Dで光が屈折・集中するため)。この直線上には水の通るパイプが設置されており、普通の太陽光よりも60倍強い光で水が温まる。この温水はタンクに保管され、温室を温める必要がある際に再度、パイプを通して温室内に流される仕組みだ。

胡蝶蘭は強い光に弱く、簡単に日焼けしてしまうため、このように太陽光を別の場所に集中させる仕組みは花の品質にとっても都合がいい。

ただ、地球の自転の関係で太陽光が集まる線は秒単位でズレていくので、数十秒単位でパイプの位置が調整されるようになっているとか。

この仕組みのおかげで、エネルギー消費量が通常の温室を使うよりも4,5割削減できるらしい。

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(筆者撮影 2022年4月 無数のポットが並んでいた温室。病原菌等を入れないために、関係者以外立ち入り禁止だったので、ガラス越しに撮った写真だ)

また、水の使用に関しても工夫がなされている。

地下に貯水タンクが二つ設置されており、余分な雨水をためることができる。必要に応じて、植物の成長や温室の温度を下げるために使われる。

この地域で問題となっている、土壌の塩類集積や浸水の緩和にも貢献しているらしく、この施設を作ることに関して地域の水管理委員会は賛同的だったそうだ。

 

これだけエネルギーや水の使用を工夫していても、胡蝶蘭は「環境に悪影響のある花」と考える人々もいる。もしも、環境活動団体が胡蝶蘭を非難し、不買を消費者に勧めたら、業界へのダメージは相当なものとなるだろう。

従って、Ter Laak Ochidsは他の胡蝶蘭生産者と協力し、話し合い、「してはいけないことはするな!」と唱えているらしい。例を挙げると、禁止された農薬の使用など。Ter Laak Ochids自身は、病害虫に関しては、監視や環境管理による予防と、生物的防除を最優先している。

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(筆者撮影 2022年4月 一株一株に支柱を挿す作業は、病害虫がいないかの確認も兼ねている)

温室の一画には、個人が胡蝶蘭を購入できるお店もあった。筆者は両手に収まる小さめのものを買ってみた。

高校時代、3年間を通して私のクラスを受け持っていた担任の先生が、ある日突然「すぐる」と名付けた胡蝶蘭を教室に持ってきて、その日からクラスの仲間になったのを思い出す。すぐるはなんと5年間も生きたそうだ。

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(筆者撮影 2017年4月 高校のクラスの仲間となった「すぐる」)

筆者自身は卒業&帰国を数か月後に控えているため、今回購入した胡蝶蘭はいずれ友達に譲ることになると思うが、この子は何年生きるだろうか。

参考:

International Grower of the Year 2018
オランダの地域別・耕作地価格
Ter Laak Ochidsのエネルギーや水使用の工夫
Ter Laak Ochidsのホームページ

興味のある方は、以下の動画も観てみてください!胡蝶蘭の品種開発から出荷までの様子が紹介されていて、かなりの工程が機械化されていることもわかります。

 

Profile

著者プロフィール
森田早紀

高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ。農業応用科学大学の4年生。卒業後は地元で百姓になり、楽しく優しい社会を、農を軸に築きたい!オランダで生活する中、感じていることをつづります。

Instagram: seedsoilsoul
YouTube: seedsoilsoul

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