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農・食・命を考える オランダ留学生 百姓への道のり

森田早紀|オランダ

一輪車を使って、対立するオランダ政府と農業従事者をつなぐ

(Kruiwagenmars website - Pers bestanden)

オランダで、農業従事者たちがトラクターに乗って、大規模なデモをしたことは、ニュースで目にした方もいるだろう。強化され続ける、農業分野(特に畜産)における環境政策に反発して、農業に対するリスペクトと規制緩和を求めている(*1・2)。

(過去に掲載した関連記事➡ オランダの環境政策窒素危機生産性追求型農業の成れの果て

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(iStock - deepblue4you 写真素材はドイツのものだが、オランダでも同じような光景が見られた)

2019年10月から2022年11月現在まで続いていて、高速道路をトラクターで走行・封鎖する、道路脇で藁やタイヤを燃やす、町役場に家畜の糞尿から作られた肥料をまき散らす、「窒素大臣」の家の前の警察を攻撃するなどかなりアグレッシブな手段を用いているのが印象に残った。逮捕者も複数出ているとか。

トラクターではなく、一輪車で練り歩く

打って変わって、今年2022年10月12日には、オランダの首都ハーグで、一輪車を押して歩くイベントが行われた。その名も「一輪車マーチ(Kruiwagenmars)」(*3・4・5)。

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(Kruiwagenmarsウェブサイトより。イベントのロゴマーク)

70ほどの組織が賛同し、150強の一輪車が集まったとか。彼らは農業従事者だけでなく、市民・教育関係者・医者・知事と一緒に、ということを大切にしている。以下の動画にみられるように、若い人が比較的多く参加しているのも印象的だ。

この運動では、二酸化炭素や窒素の排出だけでなく、水質・気候、さらには上昇する食品価格と低下する食品品質(栄養価)、そして人間の健康までをも課題として挙げている。そんな彼らが政府・公務員に対して訴え求めるのは...

・ 生きた土を、窒素削減目標の共通の出発点とすること。
・ 手段よりも結果を重視し、農業従事者が自由にできるようにすること。
・ ネイチャーインクルーシブな農業(※)、特にその多面的機能(例えば景観、きれいな空気、貯水、知識の共有)に関して、農業従事者に対価を支払うこと
・ 新鮮な食料品を皆にとって手ごろな価格にすること。それも、農業従事者の犠牲の上にではなく。
・ 食に係るローカルな取り組みを使い、食に対する市民の意識を高めること

※ オランダ語で natuurinclusievelandbouw、英語で nature inclusive agriculture。農業と自然環境がお互いに強化しあえる関係を目指す。精密農業、不耕起栽培、輪作、農薬を使わない病害虫管理などの取り組みが含まれる(*6)

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(Kruiwagenmarsのウェブサイトより。広場に集まるマーチの参加者)

マーチの締めには、オランダ農業・自然・食品品質省(LNV)に請願書を渡した(*7・8)。

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(Kruiwagenmarsのウェブサイトより。請願書を渡した記念写真)

来年2023年の4月22日、アースデイには、欧州委員会の本部があるベルギー・ブリュッセルにて、一輪車マーチを再び行う予定らしい。

農業従事者は、敵ではなく「未来の薬剤師」だ

窒素排出削減や環境保全のために、オランダ政府は農場・牧場を強制買収するなどといった強硬な手段を用いている。農業従事者による大規模デモは、それに対する怒りの表現で、初めのうちは一般の賛同率も5~8割近くと高かった。しかし、デモの手段が激化するにつれて4~6割に減っている(*9・10・11・12)。このままデモが長期化・激化すれば、一般の賛同率の低下に加え、農業従事者の間や社会での賛同者 vs. 非賛同者の対立が悪化していくだろう。

このデモと、一輪車マーチとの違いの一つ、それは「トラクターに乗って孤立した農業従事者」ではなく、「地域に近い存在の農業従事者」というところにあるのだと思う。農業従事者 vs. 政府という対立構造や、農業は悪か悪ではないかという喧嘩ではなく、農業は解決策という前提で議論をすること。

栄養価の高い野菜は薬の代わりになるという、医食同源のような考え方からも、農業従事者を未来の薬剤師として、社会の健康に貢献できる存在として、捉えてほしいという想いもあるらしい。

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(Kruiwagenmarsのウェブサイトより。マーチに集まった人々)

私個人の考え

「農家潰し」とも呼ばれている、オランダ政府の厳しい環境政策。それに対して農業従事者が怒りを覚え、声を上げこぶしを上げるのもわかる。ガツンと言ってやらないと伝わらないこともあるだろう。

政府や国際機関、企業が進めているSDGsや「サステナビリティ」などに疑問を覚える点がある。だから、一方的な環境政策に強く反発し、行動で示したくなる気持ちも理解できるところもある。

しかし同時に、現状の効率追求型のオランダ農業や、大量生産・大量消費型社会には限界があるだろう。今のままでは農業も環境も、そして私たち人間も持たないことは目に見えている。

ではどうすればいいのか?世界はそう単純に、はっきりした白黒ではない。

 

今回のオランダのデモように、農業が社会の一匹狼のような形になっていくことや、そもそも彼らが問題として掲げている農業・農業従事者に対する軽蔑や無関心は、社会が分業・細分化を続けてきたことの弊害だと思う。自分が係わらない分野はどんどん他人任せに、そして他人事になっていく。

何かの分野を極めているプロの方を否定しているわけではないし、むしろカッコいいと思う。

しかし、無関心や分断につながるまでに、社会全体として分業・細分化をするのはいかがだろうか?

 

私たちは皆、生きているからには「食」にお世話になる。「百姓」というように(諸説ある定義は一旦置いておいて)様々な姓=職業 の人が農や食に関わることが大切だ。そのためには、大きな組織が広く一括して普及させようとする「大きな解決策」よりも、地域に根差した中小の組織の多様な活動と共創が重要になってくるだろう。そういった意味でも、多様なステークホルダーを仲間に入れ、ローカルな活動を促そうとしている一輪車マーチは希望の持てるムーブメントだと思う。

一輪車は誰でも、免許なしに乗れる押せる車(いや、乗っている人もいるか ↓↓↓)

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(Kruiwagenmarsのウェブサイトより。マーチの参加者)

一輪車を皆の手に、食を再び皆の手に。

参考文献

*1 AD.nl. 'Boerenprotest'
*2 Bergsteijn, 2020. 'Boerenprotest': How Dutch Farmers situate themselves in the Hybrid Media System.
*3 Kruiwagenmars. Website.
*4 Foodlog, 2022. Kruiwagenmars voor de toekomst.
*5 Vee en Gewas, 2022. Fotoserie: drukke kruiwa
genmars door Den Haag.
*6 Patidar, 2022. Nature-Inclusive Agriculture: A New Approach towards Sustainability.
*7 Akkerwijzer, 2022. Ministers ontvangen petitie voor levende bodem.
*8 RTV NOF, 2022. VIDEO: Kruiwagenmars door Den Haag, petitie aangeboden.
*9 RTL Nieuws, 2019. Sympathie voor boeren kalft af na nieuwe acties.
*10 van der Heyden, 2022. Meerderheid keurt boerenprotesten van deze week af: puin en hooibalen zetten kwaad bloed.
*11 i&o research, 2022. Licht dalende steun voor boerenprotesten.
*12 Kester, 2022. Meerderheid heeft begrip voor boerenprotesten, maar wil toch minder stikstofuitstoot.

 

Profile

著者プロフィール
森田早紀

高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は百の仕事をなす百姓になり、楽しく優しい社会を、農を軸に築きたい!オランダで生活する中、感じていることをつづります。

Instagram: seedsoilsoul
YouTube: seedsoilsoul

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