
England Swings!
ウィンブルドンの季節に大ブレイク、英国版いちごサンド
数あるフルーツの中でも旬のいちごを選んでこの時期に売り出したというのも、今回の大ヒットの大きなポイントだと思う。フルーツは輸入ものが多い英国でも、この時期だけは国産のベリー類が豊富に出回る。なかでもいちごには夏を代表するデザートがある。
いちごと生クリームという組み合わせは、そのまま「ストロベリー&クリーム」という英国の伝統的な夏のデザートの名前だ(正確には「strawberries」と複数形ですが!)。日本のものに比べると酸味が強めのさわやかないちごに、濃厚な生クリームを液体のままたっぷりかけるだけ。乳製品が美味しいこの国らしいデザートだ。
そしてこのストロベリー&クリームは、英国の夏の風物詩のひとつ、テニスのウィンブルドン選手権に欠かせないデザートでもある。会場のレストランでも出されるし、屋台には長い行列ができて飛ぶように売れる。公式サイトによると、2週間の大会期間中に消費されるいちごは毎年約200万粒(2024年には34.86トン)。ひゃー、とてもいちごを測る単位とは思えない! とにかくウィンブルドンではいちごをたくさん食べる。いちごのデザインを使った公式グッズも多いくらいだ。
それを考えると、ウィンブルドンのテニスの試合が毎日テレビから流れてくる時期に、ストロベリー&クリームのサンドイッチがありますよなんて言われたら、手を出したくなるんじゃないだろうか。大会の開幕直前に合わせていちごサンドを発売したM&S、さすがなのだ。
そんないちごサンド、日本人としてやっぱりわたしも食べてみたかった。発売直後からあちこちの店で探しまわり、10日ほどしてやっとわが家にお迎えすることができた。食べてみて思ったのは、日本のフルーツサンドと同じではないけれど、英国産の食べもののよさが活かされているな、ということだ。
レッドダイヤモンドのいちごは甘くて文句なし。泡立てた生クリームは日本のホイップクリームよりしっかりした質感で、そこにクリームチーズを加えているのでチーズケーキのような風味もある。
「日本のように甘くやわらかく作った」というパンは、残念ながら日本のパンのきめ細かいふわふわ感には至っていない気がする。けれど、クリームが日本よりかためなので、パンがやわらか過ぎるとバランスが取れないかもしれない。
食べものに関してとやかく言われがちな英国で、突如起こったいちごサンドブーム。世界中で報道されたことで、英国の人たちだって美味しいものが食べたくて、努力もしていると知ってもらえたらいいなと思う。SNSを見ていると、流行に乗っていちごサンドを手作りする人が、在英の日本人だけでなく、全国で急増している。もしかしたらそのうち夏のピクニックの定番になったりするんだろうか。それとも次はみかんサンド、キウイサンドが作られたりするんだろうか。見守っていくのが楽しみだ。

- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile