コラム

「財政戦争」がテーマとなるバイデン政権後期の展開

2022年10月31日(月)15時55分

バイデン政権後期の米国は、国際情勢だけでなく、制御不能な国内政治にも向き合う試練の時間を迎えることになる...... REUTERS/Tasos Katopodis

<バイデン政権後期の米国は、混沌としつつある国際情勢だけでなく、制御不能な国内政治にも向き合う試練の時間を迎えることになる......>

連邦議会中間選挙で共和党の下院支配権奪取が確実視される中、米国政治情勢分析の焦点は来年以降の政治的駆け引きのシナリオ予測に移ってきている。

メインシナリオはバイデン政権と下院共和党による「財政戦争」である。

政権発足以来、バイデン政権は上下両院の支配権をてことして巨額の財政出動を実現してきた。ただし、バイデン政権の財政支出はインフレを引き起こす要因の一つとなり、中間選挙で民主党自身を追い詰める結果にも繋がっている。

民主党側がコロナ対策、インフラ投資、インフレ抑制、学生ローンの一部帳消しなどの名目で、一連の無謀な財政支出をゴリ押ししてきたことには理由がある。それは政権発足当初から連邦議会中間選挙での下院敗北が元々予測されていたからだ。

実際、現職大統領を要する与党は中間選挙で不利な結果となる傾向があるとともに、国勢調査に基づく10年に一度の選挙区割り見直し、バイデン大統領・ハリス副大統領の不人気、極端に左傾化した文化・社会政策、そしてインフレ問題など、民主党にとっては中間選挙における不利な条件がてんこ盛りとなっている。唯一の民主党の勝ち筋はトランプ派の悪評及び暴走であったが、10月31日原稿執筆現在まで連邦下院選挙に大きな影響は与える事態は起きていない。

そのため、共和党下院支配下のバイデン政権後期では、民主党は自己が望むような巨額の財政支出や増税計画を実行することは不可能になることは自明であった。これがインフレ下であるにも関わらず、バイデン政権及び民主党議会が巨額の財政支出を前倒した背景だ。

共和党が連邦下院を奪った後は、巨額の財政支出の見直しが始まる

共和党が連邦下院を奪った後に開始されることは、バイデン政権下で進められた巨額の財政支出の見直しである。バイデン政権は共和党にひっくり返される前に少しでも財政政策上の取引の手札を増やそうとしていたというわけだ。

共和党にとって民主党が歩を進めたメディケアや気候変動関連支出の見直し、そして薬価規制を徹底的に葬ることは既定路線である。来年早々にも共和党保守強硬派による政府閉鎖を辞さない連邦議会での厳しいつばぜり合いが行われる見通しだ。

現在、下院の予算委員会や歳入委員会のリーダーに名前が挙がっている議員たちの発言に鑑み、共和党側の戦闘意欲はいずれも十分だと言えよう。連邦議員の保守度を評価するACU Rating(100点満点)では、予算委員会のトップを狙うジェイソン・スミスの生涯評価は90、歳入委員会のトップを狙うジョディ・アーリントンは94、アール・バディ・カーターは88、ロイド・スマッカーは82であり、いずれも80点を超える保守派だ。共和党が財政タカ派としてバイデン政権に対峙するには十分な面子だ。

共和党側の殿下の宝刀は「債務上限」問題だ。米国の債務上限のリミットは2023年第三四半期に限界を迎えると予測されており、共和党にとって民主党の目玉政策の見直しを迫る最強の脅しの材料となる。その際の野党の立場に立った共和党のバイデン政権への容赦のない追及とチキンゲームは既に目に浮かぶようだ。結果として、バイデン政権は下院共和党に妥協し、メディケア、気候変動、学生ローン帳消しなどの一部の見直しを余儀なくされることになるだろう。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

川崎重社長、防衛事業の売上高見通し上振れ 高市政権

ワールド

米16州、EV充電施設の助成金停止で連邦政府を提訴

ワールド

中国最新空母「福建」、台湾海峡を初めて通過=台湾国

ワールド

ウクライナ安全保証、西側部隊のロシア軍撃退あり得る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story