コラム

「財政戦争」がテーマとなるバイデン政権後期の展開

2022年10月31日(月)15時55分

一方、強硬姿勢が予測される下院共和党にも「財政戦争」を首尾良く進めるには幾つかのアキレス腱が存在している。そのアキレス腱とはトランプ減税、国防費増額、そして上院共和党の裏切りである。

共和党はトランプ政権下ではトランプ減税・規制廃止の効果などでインフレの2倍の給与の伸びがあったと主張しており、債務上限問題に際しても減税の旗を降ろすことは考えられない。また、緊迫する国際情勢の中、対GDP比で冷戦期の半分にまで落ち込んだ国防費を再び増加させよと主張する党内の声も無視できない。満額でなくともこれらの主張を反映させることがバイデン政権側との財政交渉を巡る妥協点となるだろう。

そして、仮に共和党が上院で過半数を確保したとしても、アラスカ州のムルカワスキー、メイン州のコリンズなどの民主党寄りの投票行動を行う名ばかり共和党連邦上院議員が数名存在している。彼女たちのせいでトランプ政権時代はオバマケアの一掃に失敗した経緯がある。そのため、フィリバスター(議事妨害)を回避するための60票どころか、共和党が民主党の議席を数議席上回った程度では過半数50票を獲得できるかすら実は怪しい。さらに、バイデン大統領は予算・法案に対する拒否権を有しており、共和党下院の強硬姿勢がどこまで通用するか見通しは不明だ。

したがって、双方が合理的に考えた場合、激しく罵りあいながらも、最後は互いに譲歩することが正解ということになる。

米国は我々が予想する以上に政治的分断が深刻化している

しかし、現代米国政治において、そのような理性的な合意形成が行われるかは一抹の不安が残らざるを得ない。米国の現状は我々が予想する以上に政治的分断が深刻化している。新たに当選してくる共和党のトランプ派議員、民主党の左派系議員らにとって敵に僅かでも妥協することは敗北を意味する。最悪の場合、米国史上初の債務上限引き上げの不成立となる異常事態が起きる可能性も無視できない。

バイデン政権後期の米国は、混沌としつつある国際情勢だけでなく、制御不能な国内政治にも向き合う試練の時間を迎えることになるだろう。今後、一層米国政治から目が離せない日々が続くことになりそうだ。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、1億7200万バレルの戦略石油備蓄を放出へ 来

ワールド

イラン小学校空爆などで「迅速な調査」要求、米民主党

ワールド

トランプ氏、イランとの戦争に「勝利した」 任務完遂

ビジネス

米ターゲット、約3000品目値下げ 低価格志向の消
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃に支持が広がるのか
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 5
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 6
    「邪悪な魔女」はアメリカの歴史そのもの...歌と魔法…
  • 7
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 8
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 9
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 10
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 5
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story