コラム

学問の自由を守るために日本学術会議を完全民営化する方法

2020年10月06日(火)17時00分

菅内閣が日本学術会議が推薦した会員のうち一部の人々の任命を拒否したことが物議を醸しているが...... REUTERS/Issei Kato

<日本学術会議の運営等に関して、学問の自由を完全に守る前提での組織改革を提言する......>

菅内閣が日本学術会議が推薦した会員のうち一部の人々の任命を拒否したことが物議を醸している。今回の記事では、日本学術会議の運営等に関して、学問の自由を完全に守る前提での組織改革を提言する。

まず日本学術会議国際協力常置委員会自らが行った「各国アカデミー等調査報告書」(2003年)に基づいて、各国のアカデミーの状況に大きな変化はないものと仮定し、その内容を参照していく。

<各国アカデミー等調査報告書からの抜粋>
〇根拠法令
欧米、アジアを問わず、諸外国の殆どのアカデミーは、その設置の根拠として、王室勅令、大統領勅令、大臣令、議会令、法令、定款など、勅令・法令に基づく設立の根拠を持つ。これにより、アカデミーは国家学術界の最高の地位に位置付けされ、十分な敬意をもって遇されている。

〇政府・非政府の別
全米科学アカデミーが独立民間非営利組織であるのを始め、欧米各国の代表アカデミーは、ほぼ全てが非営利団体・法人などの非政府組織である。これとは対照的に、日本を含めたアジア諸国のアカデミーの大半は政府機関の中に位置付けられている。

〇公務員・民間人
会員の身分は日本学術会議会員は公務員(特別職非常勤国家公務員)の身分を持つのに対し、非政府組織である諸外国アカデミー会員は当然ながら民間人としての参加となっている。

〇報酬の有無
ほぼ全ての国のアカデミー会員は無報酬で活動を行っている。全米アカデミーズ、米国社会科学研究会議、ハンガリー科学アカデミーなど、一部の機関では会長に報酬を与えている。これに対し、日本学術会議は国立大学教授等の国家公務員以外の会員に対し若干の報酬を支給している。

〇科学者一人当たり会員数
国内の全科学者数約 73 万人に対する会員の割合(3,500 人に1人の割合)で比較した場合、これは他の先進諸国の例、米国(220 人に1人の割合)、英国(80 人に1人の割合)、フランス(820 人に1人の割合)、ドイツ(210 人に1人の割合)、イタリア(420 人に1人の割合)、カナダ(50 人に1人の割合)、スウェーデン(100 人に1人の割合)に較べ、非常に少ない。

〇会員の選出
会員の選出方法に関して、日本学術会議は既存の学会・研究団体から選出されるのに対し、各国アカデミーは、ほぼ全ての機関において、そのアカデミー内の会員により推薦・選出される方式(co-optation)を採用している。これは、アカデミー会員は学術上高い評価を得た者で構成されているべきであり、会員選出の判断はアカデミー会員のみによって可能であるという考え方に基づくと理解できる。他機関からの寄与を排除することにより、アカデミーとしての独立性・中立性を保ちつつ、社会に対しての自己責任を負うことで、ひいては社会からの信用性を高めることにもなろう。勿論、いかなる選出方法においてもその透明性を確保することは欠かせない。
以上のように本報告書内容は実に面白い。そして、欧米各国と比べると、日本学術会議の本当の問題は明らかだと思う。(現状では推薦方法はco-optationに変更されているが・・・)

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ボリビア大統領選、中道派パス氏が首位 左派は敗北へ

ワールド

ケネディ米厚生長官、2028年大統領選への出馬を否

ビジネス

米産業用機械メーカーが苦境に、関税コストの顧客への

ワールド

韓国大統領、北朝鮮との合意の順次実行を閣僚に指示
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story