コラム

学問の自由を守るために日本学術会議を完全民営化する方法

2020年10月06日(火)17時00分

政府によるアカデミーの運営を行う必要はない

日本は先進国としてアジアの後発諸国のような政府によるアカデミーの運営を行う必要はないということだ。政府から財政的にも独立することによって、政府から干渉を受けることなく学問の自由が一層担保されることは議論の余地はない。そして、現状の日本学術会議のように、政府に財政的に依存、会員の身分が公務員扱い、という体制は、政府による学問の自由に対する介入の余地を潜在的に残した体制と言える。

では、完全民営化した場合の財源措置はどうるべきなのか。現在、日本学術会議に割り当てられる毎年の政府予算は10億5000万円、その使途の内訳は、会員の人件費などを含む提言2億5000万円、国際活動2億円、科学の役割の普及啓発1000万円、科学者間のネットワーク構築1000万円、事務局人件費・事務費5億5000万円となっている。

仮に日本学術会議が完全に政府から財政的・身分的に独立したアカデミーに生まれ変わるとしよう。日本学術会議の運営経費を現在の210名の会員で賄う場合、会員一人当たり年間500万円の会費を負担する必要が生じる。これは現実的とは言えないだろう。

したがって、資金面での現実性を担保するため、欧米のように日本学術会議の会員を科学者数百人に1人の体制まで拡充することが想定される。たとえば、米国並みの比率(約16倍)にした場合、会員1人あたりの負担は年間30万程度だ。日本を代表する科学者であればその程度の金額を負担することは問題ないだろう。まして、諸外国のように報酬を廃止して手弁当にすればその金額を更に半額程度まで引き下げることもできる。

さらに、会員の門戸を拡大することは、多くの科学者が社会的に権威を得て提言を出す機会を担保することにも繋がる。会員人数が拡大することによって一部の身内だけの議論で会員が選ばれる弊害を防止し、より多角的な視座から会員の推薦が行われるようにもなるだろう。もちろん、任命は推薦理由を吟味した上で、日本学術会議自身が行えば良いだけだ。

会員の会費で独立採算で運営することを前提とした民間組織として

筆者は日本学術会議の会員がどのような政治的主張を有していても良いと思う。しかし、それは政府から財政的・身分的に独立した状態で行われることが望ましい。日本学術会議は210名と会員人数を極めて少数に限定している現行法を廃止し、会員の会費によって独立採算で運営することを前提とした民間組織として再出発するべきだ。

現在、政府と日本学術会議側で揉めている不毛な推薦・任命の論争は、誰もが説明責任を取らなくても済んでしまう「税金という他人のカネ」で運営される組織運営において必然的に生じる帰結でしかない。日本学術会議の会員も自分たちのカネで運営する組織となれば「お手盛りの会員推薦」は難しくなるし、まして政府側が会員任命に対して政治的意図を働かせる大義名分が無くなる。

現在の一部の特権階級の人々が政府と持ちつ持たれつ運営する組織の在り方を改め、自主独立の運営組織として広く科学者の参加を受け入れるだけで、学問の自由は守られた上に、現在の推薦・任命問題の再発が防止されることになる。本臨時国会で日本学術会議の完全民営化のための法改正を行うことが望まれる。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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