コラム

次期米国大統領の自由を制約する上院議員選挙

2020年10月29日(木)12時45分

おそらく共和党にとって、アラバマ州を奪取し、アリゾナ州・コロラド州での敗北は想定の範囲内のことだろう。差し引き1議席のマイナスなら何の問題も無いが、共和党の誤算は本来優勢な議席であったにも関わらず、急速に議席維持見通しが悪化している他の7議席だろう。

その中でも最も困難な選挙戦を強いられているのは、メイン州のコリンズ議員とアイオワ州のアーンスト議員だ。メイン州は元々リベラルな土地柄であり、コリンズは当然に上述のバレット最高裁判事承認にNoを突き付けた。しかし、党派性が強まる政府風土の変化の中で、左派的な土地柄の同州においてコリンズの投票行動は有権者の信頼を得るためには十分ではない可能性が高い。実際、コリンズは民主党候補者に支持率と資金力で劣後する状態に置かれている。

アイオワ州のアーンスト議員の議席を巡る攻防は熾烈だ。同州の選挙は米国史上2番目の選挙資金が投じられる上院議員選挙となっており、上院過半数を左右する攻防の最前線である。農業州という特殊な立場を代表し、トランプの対中貿易政策に批判的であったアーンスト上院議員は、トランプと更に一線を画す姿勢を取り始めている。アイオワ州はバイデン支持が強まりつつある中、アーンストは困難な選挙の舵取りを迫られている状態だ。

両党が死力を尽くして激突するノースカロライナ州

ほぼ互角の情勢となっているのは、ノースカロライナ州、モンタナ州、サウスカロライナ州、ジョージア州2議席である。

ノースカロライナ州は大激戦州となっている。同州は大統領選挙の帰趨を占う上でも重要な州であり、共和党・民主党の両党が死力を尽くして激突する場となっている。直近まで優勢な状況を築いてきていた民主党のカニンガムにオークトーバー・サプライズの不倫スキャンダルが発生し、共和党のティルズ上院議員は逆転の芽が出てきている。この状況は同州の大統領選挙にも影響を与える可能性があり、共和党にとっては千載一遇の機会が到来している。

モンタナ州は共和党のデインズ議員に対し、現職知事であるバロック知事が挑む格好だ。2018年中間選挙では民主党上院議員が議席を制しており、現職知事の知名度を生かしたバロックがデインズを激しく追い上げる構図となっている。情勢はデインズがやや優勢ではあるものの、いつでも状況が変わる大接戦である。サウスカロライナ州は伝統的に共和党が強く、共和党現職のグラハム議員は強力な地盤を有するが、域外から流れ込む選挙資金におされて急速に情勢が悪化している。同州は共和党の次期大統領有力候補者であるニッキー・ヘイリーの地元州であることから同州の結果は今後4年後の大統領選挙にも影響を与えることになるだろう。

ジョージア州では2議席の改選となっているが、パデューの1議席は苦戦しつつも相対的に堅調な推移となっている。問題はアイザクソン前上院議員の引退に伴う補欠選挙であり、こちらは共和党現職・新人の2名、そして民主党候補者1名が争う状態となっている。この補欠選挙は過半数を制する者がいない場合、1月に決選投票を行う運びとなっている。

以上のように、上院において共和党は過半数割れの危機に立たされている。上院は政権高官人事などに強い権限を持っており、上院の多数は今後の政局運営に大きな影響を与えることとなるだろう。大統領選挙以外に上院議員選挙の結果も要チェックだ。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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