コラム

サイバー攻撃で、ドイツの製鋼所が甚大な被害を被っていた

2015年09月01日(火)17時30分

政府機関が認めた制御システムへのサイバー攻撃として2例目に  Ina Fassbender-REUTERS

 2014年12月末、ドイツ政府の情報セキュリティ庁(BSI)からサイバーセキュリティに関する報告書が公表された。BSIは、もともとはドイツ政府の主要インテリジェンス機関(諜報機関)である連邦情報局(BND)の暗号部だったが、2011年に切り離されて独立の機関になっている。その報告書によると、ドイツの製鋼所のネットワークがサイバー攻撃を受け、溶鉱炉の一つが甚大な被害を被ったという。攻撃者はいわゆる標的型電子メールを送りつけ、制御システムを乗っ取った。その結果、プラントの部品が壊れ、溶鉱炉が正常に停止せず、被害が生じたという。

 BSIの分析によれば、プラントに属する特定の個人が狙われ、ソーシャル・エンジニアリングの手法を使って電子メールを開くように細工されていた。メールは一見すると組織内から来たように見えたという。攻撃者たちはプラントの従業員の情報システム(電子メールやウェブなどの情報処理用のシステム)を乗っ取るだけでなく、プラントを管理するための制御システムにも成熟し、制御システムの一部を乗っ取ることに成功した。BSIは被害企業の名前も場所も公表していない。攻撃者の素性も動機も分かっていない。

 インターネットに直接つながる情報システムを乗っ取ることはそれほど難しいことではない。もはや日常的にそうした被害は出ている。しかし、制御システムの多くは、直接はインターネットにつながっていないことが多い。システムのアップデートや遠隔操作のためにつながっていることもあるが、そもそも制御システムは汎用性のあるプログラムではなく、専門の知識がなければ操作するためのプログラムを書くのは難しい。まして、それを遠隔で動かすのは至難の業である。

制御システムを狙った三つのマルウェア

 ドイツの溶鉱炉に対してどんなマルウェア(悪意のある不正ソフトウェア)が使われたのかは不明だが、もしこれが新しいマルウェアによるものだとすれば、ドラゴス・セキュリティの共同創設者であるロバート・M・リーは、物理的な制御システムに影響を与えたサイバー攻撃用のマルウェアとして四つ目だと指摘する。他の三つは、第一に、スタックスネット(Stuxnet)、第二に、ハヴェックス(HAVEX)、第三に、ブラックエネジー(BlackEnergy)である。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米上院議員が戦争権限決議案、トランプ氏のイラン軍事

ビジネス

NTTドコモ、 CARTAHDにTOB 親会社の電

ビジネス

パリ航空ショー、一部イスラエル企業に閉鎖命令 イス

ワールド

アングル:欧州で増加する学校の銃乱射事件、「米国特
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story