娘の言葉はウソだ...苦しむ「宗教2世」の会見場に届いた、両親からの「悪夢の手紙」

YOSHIO TSUNODA/AFLO
<あまりにショッキングな手紙を受け、会見の司会を務めていた私は言葉が出なくなったが、本人と夫は強い意志で会見を続けた>
フランス人記者の私は日本外国特派員協会のレギュラー会員で時々、記者会見の司会を務める。基本的にそれほど難しい仕事ではない。記者会見をする人と打ち合わせをし、会見の流れを確認した上で、参加者を紹介する、冒頭の説明が長くならないよう時間を管理する、質問する記者を選ぶ、自分も質問するといった役割をこなす。
それが最近、悪夢でも見たことのないような事件が起きた。10月7日、SNSでも話題になった小川さゆり(仮名)さんの記者会見でのことだ。26歳の彼女は宗教2世で、6年前に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を脱会した。両親は今も信者だ。信者の子供としての自らの大変な経験を語るだけでなく、アンケート調査した宗教2世の被害の実態を報告することも会見の目的だった。内容は説得力があり、興味深いものだった。
ところが記者会見の開始から45分くらいたった頃に突然、外国特派員協会のスタッフが私のところに来て、2枚のファクスを見せた。宛先は外国特派員協会で、1枚目は英語で書いてあり、送信者は小川さんの両親。もう1枚は日本語で、旧統一教会の弁護士からだった。
内容はほぼ同じで、要するに、小川さんがマスコミに言うことは嘘なので記者会見を中止するようにと求めるものだった。要請を無視すれば、外国特派員協会に対して法的手続きを検討するという脅しも含まれていた。
「どうかこの団体を解散させてください」
それを読んで私はかなりショックを受けた。外国特派員協会の会見では司会者は英語で話さなければいけないが、私の母語ではないので、言葉が全く出なくなった。しかし、何をすればいいかをスタッフとやりとりし、早く決定しないといけなかった。
旧統一教会や両親からの圧力は無視し、記者会見を継続すべきだと私は思った。隣にいる小川さんの夫に相談したら、彼も同じ考えだった。当然だが、小川さんにとってはあまりにもショックな出来事だ。それでも彼女は会見を中止せず、さらに強いメッセージを出し、「私が正しいと思ってくださるなら、どうかこの団体を解散させてください」と語った。
私は7月末頃から何人もの宗教2世に取材をしたが、いかにつらい経験だったかを全員が教えてくれた。旧統一教会以外の宗教団体の信者の子供も、精神的な虐待や人権侵害を受けたという証言が多数あった。自分を含め、なぜもっと早くこの深刻な問題に気付かなかったのか、罪悪感を覚える。
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