コラム

アメリカ人が日本で、ちょっと「政治的な」近所付き合い

2020年11月18日(水)12時15分
トニー・ラズロ

TAKASHI AOYAMA/GETTY IMAGES

<「遠くの親戚より近くの他人」とはやや異なるが、身内との会話で米大統領選の話ができない在日アメリカ人は多いと聞く。どうして人は現状維持に票を投じるのか、考えさせられる選挙だった>

せっかく週刊誌を購読していても、気になる時事ニュースについて意見交換できる話し相手がいない──多くの外国人にとって、これは悩みの種だ。何も日本に限った話ではなく、筆者の経験では、どこの国のどこの町に行っても、そこに住む「旧住民」は新しく引っ越してきたよそ者と深みのある話をなかなかしてくれない。

でも、ときどき例外が現れる。うれしいことに今、僕の家の近所には、熱心に談義をしてくれる物知りの年配者がいる。しかも、論語や寓話、世界各国のことわざを引用してくれるので、彼との会話はけっこう勉強になるのだ。そんな話をするうちに、この年配者と友人になった。

先日も、僕が何か口にする前に、この友人はあきれた顔で「自掘墳墓」という四文字(「墓穴を掘る」に類する中国のことわざ)を僕に見せてきた。唐突のことではあったが、何を言いたいのかはだいたい見当がついた。その日は11月4日──アメリカで大統領選挙が展開されていた日。あるいは友人に言わせれば、アメリカの有権者が自分で自分の首を絞めていた日だ。

彼が問題視していたのは、バイデン勝利かトランプ勝利かということより、そもそも両者が接戦になっていたという事実だ。なぜトランプが率いる共和党に対する完全かつ圧倒的な否認にならなかったのか?

トランプは負けた。しかし、7000万人以上が彼を次期大統領として選択した。パンデミック(世界的大流行)に対する失策を考えただけでも、これだけ多くの人が変わらず共和党を支持しているのは確かに変だ。自分のすぐ近くで人が死んでいっているのに、「現状維持」に票を投じる?

一方、日本はどうだろう。アメリカと比べてコロナ対策はずっといいが、それでも他の面で「現状維持に票を投じるの?」と似たような批判に遭う。第2次大戦以降、ほとんど政権交代のない道を歩んできた日本人は、ときおり自分の利益に反した選択をしているのではないのか?

民主主義国において変わるべき政治が変わらない現象について、大まかに言って2つの分析がある。「有権者は政治家のレトリックや大企業の宣伝力にだまされている」は、その1つ。もう1つは「人々は自分のゲマインシャフト(共同社会)を壊す巨悪の力に必死に対抗している」で、例えばアメリカで少数派に転落しつつある白人の社会変動に対する不満やフラストレーションを指す。そして、実はもう1つ別の理由があると思う。それは単なる「習慣」。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国輸入博、米出展企業は貿易戦争の行方を楽観視

ビジネス

豪CBA、第1四半期は2%増益 住宅ローンのシェア

ワールド

イラン、IAEAの核施設視察受け入れ テヘランの研

ワールド

タイ軍、カンボジアとの停戦合意「停止」へ=最高司令
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 7
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story