コラム

ドイツで起きる食のイノベーション──人工肉や昆虫食

2021年03月24日(水)18時15分

肉食と気候変動

肉は単なる食べ物ではなく、今や世界的な環境危機の象徴となっている。今日、世界の総面積の約3分の1が肉の生産に使用されており、動物は排泄物で土壌と水を汚染し、温室効果ガスを放出することで気候変動を加速させる。そして、肉への大きな渇望は、心血管疾患、2型糖尿病、結腸癌などが促進される可能性がある。1kgの牛肉を生産するには、約16kgの植物性食品と15,000リットル以上の水が必要となる。さらに、肉の生産量が多いと、土壌、気候、生物多様性に悪影響を及ぼす。

新興国での急速な人口増加と肉への欲求の高まりを考慮すると、需要は倍増する可能性があると世界食糧計画は予測している。世界の一人当たりの肉の年間消費量は41.9kg、欧州連合(EU)では69.6kgであり、開発途上国では急速に増加している。国連によると、今日の地球上の人口は76億人で、2050年には約100億人、2100年には110億人を超えると予測している。誰もが肉を食べ、満腹になりたいと思っているが、どうすればそれを達成できるのか?

昆虫は食卓をかざるのか?

映画『ブレードランナー2049』(2017)の冒頭のシーンには、昆虫農場が登場する。黄土色の霧がかかった荒地では、太った幼虫は温室のようなテントで飼育される。地球の生態系が崩壊した後の、2049年を舞台にしたこの映画のビジョンによれば、昆虫の飼育と食習慣は、日常生活の一部となっている。

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ローストした食用昆虫(ミールワーム、バッファローワーム、イナゴ、コオロギ)は、ドイツの古いストリートフードだった。今では見かけることはほとんどない。Wilhelm Thomas Fiege / insektenwirtschaft.de/ CC BY-SA 4.0

私たちは本当に昆虫飼育の未来に向かっているのか? EU規則の改正により、少なくとも行政上、昆虫ベースの食品への道は開かれている。理論的に食べられるものすべてがEUの家庭のお皿にのるわけではない。加盟国の独自の食の基準ではなく、すべての食品にはEUのライセンスが必要だからだ。これは、いわゆる新規食品規制や新しいタイプの食品の規制に基づいている。

EUの規則によれば、1997年5月15日以前にEU加盟国でまだ一般的ではなかった食品はすべて新規食品(ノベルフード)と見なされる。この定義に該当するすべての食品は、健康上の安全性をチェックする必要がある。たとえば、ダイエット効果があるといわれるチアシード(シソ科の種子)はノベルフードとして承認を受けなければならなかった。

EUの規制において、昆虫食を承認する機運は高まっている。新しい規制では、昆虫加工食品の導入も容易になった。食品が25年以上の間、他の文化の多くの人々によって定期的に消費されていることが証明されれば、欧州連合市場での承認を得ることができる。これは、昆虫から作られたさまざまな合成食品にも適用される。

昆虫はアジアの一般食

実際、昆虫やその幼虫を家庭の台所で普通に調理し食べる国は多い。アジア諸国、特にタイの人々は、長い間昆虫を食べてきた。昆虫は、明らかに植物による合成の代替肉を超える味覚や食感を生み出す可能性が高い。国連の世界食糧農業機関によると、世界中で約20億人が毎日昆虫を食べており、現在、1,900種以上の昆虫が食用と見なされている。

最も一般的に食べられているのは、カブトムシ(31%)、イモムシ(18%)、ミツバチ、そしてハチとアリ(14%)で、さらに、バッタ、コオロギは比較的一般的で、一部の国ではトンボもメニューにある。ちなみに、コックチェーファー(コガネムシ)やミールワーム(穀物幼虫)の揚げ物は、かつてドイツのストリートフードとして通常の料理だった。

昆虫には栄養的および生態学的な利点もある。それらの多くはビタミン、ミネラルおよび不飽和脂肪酸を含んでいて、さらに繁殖において、飼料量に対する収量の比率も非常に効率的だ。コオロギは、同じ量のタンパク質を生産する牛に比べ、約12分の1の飼料ですむ。昆虫の飼育はまた、家禽や肥育動物よりも少ない水を消費し、CO2排出量や牛などのメタンを大幅に削減する。繁殖のための広い空き地も必要ない。昆虫は他の動物に餌を与えるためにも使用できる。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

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