コラム

ドイツで起きる食のイノベーション──人工肉や昆虫食

2021年03月24日(水)18時15分

世界初の昆虫バーガーを販売したスイスのスタートアップ、エッセント社製の昆虫バーガー。ミールワームと呼ぶ幼虫が原料である。(C)Marius Wenk . CC BY-SA 4.0

<少し前まで、肉好きの街として知られていたベルリンは、今では植物性の人工肉や昆虫食に挑戦する持続可能な食のトレンド・センターとなっている...... >

ヴィーガンの首都ベルリン

ベジタリアンの三つ星レストラン、廃棄物ゼロ・クッキング、クリーン・フード、最高の有機食材や地産地消、そして今話題の人工肉や昆虫食にいたるまで、ドイツの首都ベルリンは、持続可能な食のトレンド・センターとなっている。

時代と味は移り変わっていく。本物のグルメを自称する人は、今では植物性の人工肉や昆虫食に挑戦している。少し前まで、ベルリンは肉好きの街として知られていた。ドイツ人はソーセージやアイスバイン、シュニッツェルなど、平均年間で60キロの肉を消費してきた。しかし今、品質、産地、動物福祉の基準が高い食肉市場でさえ、持続可能なルネッサンスを経験している。ベルリンのシェフのメニューには、ベジタリアンやヴィーガン(完全菜食主義)の創作料理がたくさんあるからだ。

2001年、欧州を襲った狂牛病の恐怖や相次ぐ食品スキャンダルを契機に、EU加盟国は食の安全を総点検し、多様な食品の安全対策強化に取り組んできた。EUでBIO(ビオ)と言うのは、オーガニック(有機)を意味しており、化学合成肥料や遺伝子組み換え技術を使わず、動物を適切な環境で飼育し、肥料には抗生物質を含まないものを使うなど、EU圏を流通するBIO食品には、公正な基準を満たした食品にだけBIOマークが表示される。

2015年の終わりに、ベルリンは米国の有名なグルメと旅行雑誌「Saveur」によって、世界で最も斬新な「ベジタリアンの新首都」に選ばれた。今や世界最高レベルの植物ベースの料理を創造するベルリンのダイニングシーンは、世界中のグルメから高く評価されている。

takemura0324_77.jpg

1994年にベルリンで設立されたオーガニック(BIO)スーパーのチェーン店。野菜、肉、ワインなど、すべてがオーガニックで、ベルリン市内に10店舗ある。地産地消とフードマイレージの考え方が特徴で、半径200km以内で生産された農産物しか扱わない。これは輸送にかかる余計な燃料支出や排ガスを避けるためである。

米国農務省は、ドイツがヴィーガン革命で、ヨーロッパをリードしていると報告している。現在ドイツでは、8,300万人の国民の10%がベジタリアンで、1.6%がヴィーガンと推定されており、これはヨーロッパで最も高い割合である。しかもその数は毎年増加していて、ドイツの4つの主要都市は、世界のトップ15に常にランクインしており、国自体が代用肉の主要な生産地になりつつある。

ヴィーガン革命を支える先端技術

2015年までグーグルの責任者であり、破壊的ビジネス分野の専門家であるエリック・シュミットは、2016年、グローバルな非営利シンクタンクとして知られるミルケン協会主催のロサンゼルスの講演で、「ヴィーガン革命は止められない」と強調した。彼は講演で、6つの最も画期的な将来技術を紹介したが、そのトップは、植物ベースの食品の開発だった。ヴィーガン革命に次いで、人工知能、自動運転、または3Dプリント技術が成長すると彼は指摘した。

「私たちは植物ベースの食品を生産する技術を持っている。科学者と研究者はコンピュータの助けを借りて、植物の最良の組み合わせを特定し、それによって豊かな味と最高の栄養価を達成することができる」とシュミットは主張し、さらに、今日の肉の生産は全く非経済的だとも指摘した。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story