コラム

マクロン新党の勝利の意味

2017年06月22日(木)17時00分

Geoffroy Van Der Hasselt-REUTERS

<フランス国民議会選挙は、フランスの政党政治の衰退を決定的なものにし、フランスの有権者が持つ、政治エスタブリッシュメントに対する批判をこれ以上ない形で表現した。マクロンは、果たしてこれから何をもたらすのか>

6月18日に第二回目投票が行われたフランスの国民議会選挙は、事前の予想通り、マクロン大統領が結成した新党の「共和国前進(La République en marche!:正確には「前進する共和国」と訳すべきだが、新聞等の表記に従う)」と、その友党である中道の「民主運動」が圧勝した。といっても、事前の予想では8割の議席も獲得しうるとみられていたが、結果としては350議席と6割程度の議席となった。

しかし、「共和国前進」はマクロンが大統領選に出るために結成した新党で、一年前まではその存在すらなかった政党であり、マクロンが大統領選で当選した直後ですら、国民議会での議席を確保することが困難で、大統領としての政権運営に制約が生まれるとみられていた。そんな状況であったにも関わらず、これだけの躍進を遂げた「共和国前進」の存在は、これからのフランス政治の何を示すのであろうか。

政党政治の溶解

今回の国民議会選挙でもっとも大きな特徴というのは、やはり投票率の低さ(フランスでは棄権率の高さと表現される)であった。約42.6%という、第五共和制が発足してから最低の投票率であり、これまでの最低であった2012年の国民議会選挙の55.4%を下回り、50%を切るという大幅な落ち込みである。その背景には、フランスにおける政党政治が「溶解」していったという歴史的に大きな転換があったからではないかと考えている。

メディアや世間の注目はイギリスのEU離脱やアメリカのトランプ現象がヨーロッパ大陸にも波及し、フランスにおけるポピュリスト運動が選挙を席巻する、いわゆる「ルペン現象」と言われた、国民戦線の躍進が懸念された。

結果として、マリーヌ・ルペンは決選投票には残ったが投票総数の3分の1しか得ることが出来ず(それでも1100万人という大きな数字ではあるが)、マクロンの前に敗北した。また、今回の国民議会選挙でも、前回の2議席よりは多い8議席を獲得したが、法案提出のための会派を組むほどの規模にもならなかった。その意味では、フランスにはポピュリスト旋風は巻き起こらず、「ルペン現象」は不発に終わった。

しかし、重要なのはルペンが負けたことではない。むしろ、そのルペンを止めることが伝統的な左右の政党に出来なかったことが重要である。

右派の共和党は大統領選挙の予備選でフィヨンを選出し、選挙戦中にスキャンダルが続出したにもかかわらず、個人的な野心をむき出しにして大統領選を継続し、全く振るわなかった。

左派の社会党はオランド大統領の政策に対する反発と飽きが来ており、ヴァルス首相の人気も上がらず、予備選でアモンを選出したことで、多くの有権者の心が離れ、大統領選でも惨敗し、国民議会選挙では283議席から45議席(中道左派諸派を含む)と大量の議席を失った。共産党も退潮傾向を回復できず、メランション派と言われる「不屈のフランス」党に取って代わられる状況であり、中道の「民主運動」はマクロンの政治運動である「共和国前進」に吸収される形となった。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story