ジョセフ・ナイが遺した「ソフトパワー」...トランプ再登場でその理想も静かに幕を閉じる

THE LOSS OF NYE’S WORLD

2025年5月22日(木)09時08分
スザンヌ・ノッセル(元米国務副次官補)

newsweekjp20250521051500.jpg

トランプ政権の対外援助削減に抗議する人々(今年2月) NATHAN POSNERーANADOLU/GETTY IMAGES

95〜2004年には、ハーバード大学ケネディ政治学大学院の学長を務めた。近年はアスペン研究所で「アスペン戦略グループ」を編成し、カオスにしか見えない世界に秩序と意味を見いだそうとしていた。

ナイはアメリカのパワーの将来性に希望を持ち続けていた。だが人生の終わりが近づき、彼はアメリカの衰退の可能性という問題と真剣に向き合った。

昨年出版した回顧録『A Life in the American Century(アメリカの世紀における人生)』では、アメリカの支配はあと数十年は続くかもしれないが、自分の生涯で見てきたものとは異なる形になるだろうと結論付けている。


ナイは先見の明を持って書いている。今はアメリカの将来に関する懸念の多くは中国に関係したものだが、自分の「より大きな懸念」はアメリカのソフトパワーを損なう可能性のある「国内の変化」にある──。

「国家というのは、たとえ対外的なパワーが依然として強くとも、他者にとっての美徳と魅力を失い得る」

ナイが構築を助けた理論の基盤は、アメリカの過去8年の動きによって修復不能なほど腐食した。第1次トランプ政権は、アメリカの権力の傲慢で気まぐれで、時には冷酷な一面を世界に示した。

謙虚になったバイデン政権は、アメリカが「戻ってきた」と宣言した。だが多極化と争いが激化する世界において、より控えめで協調的な外交姿勢と、説得力を持ってパワーを行使する能力の両立に苦心した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険2000件減、労働市場安定も失業期間

ワールド

訂正-G7、過度の不均衡対処で合意 対ロ制裁計画で

ビジネス

米実質賃金、過去1年は停滞=JPモルガン調査

ワールド

中国副首相、JPモルガンCEOと会談 協力深化呼び
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 4
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 5
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 6
    子育て世帯の年収平均値は、地域によってここまで違う
  • 7
    米国債デフォルトに怯えるトランプ......日本は交渉…
  • 8
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 9
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 10
    「誰もが虜になる」爽快体験...次世代エアモビリティ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 4
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 5
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 6
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 8
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中