コラム

アメリカの対中優位は揺るがないのか......「旧友」ジョセフ・ナイ教授との議論

2025年03月15日(土)14時30分
ジョセフ・ナイ教授

ナイ教授はアメリカの対中優位は変わらないと主張するが VISUAL CHINA GROUP/GETTY IMAGES

<外国から領土や利権を得ようとするトランプ政権のやり方では、アメリカのソフトパワーも失われる>

本誌2月25日号に掲載された、「ソフトパワー」論のジョセフ(ジョー)・ナイ教授の論考「中国との新冷戦でアメリカが優位な訳」を読んだ。この中で彼は、総合的に見てアメリカの優位は変わらない、特に同盟国やソフトパワーを持っている点で中国に優る、と述べている。

筆者がボストンにいた時代、彼とは時々「意見を交換」した(まず彼が口早にこちらを「口頭試問」して、合格すると相手をしてくれるという感じだったが)。懐かしい。久しぶりに、議論を仕掛けてみる。


筆者はこれまでずっと日米同盟を支持してきたが、トランプ大統領には懸念を覚えている。彼は、戦後の世界の枠組みはアメリカに不利なものになってきたとして、これを壊しかねないからだ。

戦後、アメリカをハブに結成されたNATO、日米安保条約などの同盟体制は、ソ連と中国が専制主義の体制を周辺に力で広げようとするのに対抗して結成されたものである。欧州では東欧がソ連の手に落ちたし、アジアでは朝鮮戦争が起きた。

だからこそ、米ソ冷戦や今の米中対立が起きているのだ。ところが、トランプ大統領のやり方は乱暴で、国外で領土や利権を獲得しようとする姿勢も隠さない。中国、ロシアがしてきたことと大差はない。

これではアメリカの外交は単なる力、つまり世界最大の輸入市場、「世界基軸通貨」であるドル、そして軍事力によることになる。モラル上のアメリカの優位、つまり自由と民主主義の旗手という建前とナイ教授の言うソフトパワーはなくなって、単に力と打算で外国との関係を結ぶことになる。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ、麻薬犯罪組織の存在否定 米のテロ組織指

ビジネス

英予算責任局、予算案発表時に成長率予測を下方修正へ

ビジネス

独IFO業況指数、11月は予想外に低下 景気回復期

ワールド

和平案巡り協議継続とゼレンスキー氏、「ウクライナを
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story