ジョセフ・ナイが遺した「ソフトパワー」...トランプ再登場でその理想も静かに幕を閉じる

THE LOSS OF NYE’S WORLD

2025年5月22日(木)09時08分
スザンヌ・ノッセル(元米国務副次官補)

newsweekjp20250521051602.jpg

ハーバード大学でクリントン元米大統領と(01年) DARREN MCCOLLESTER/GETTY IMAGES

危険な「国内の変化」を予見

ナイの発想は海を越え、国境を越えた。EU、中国、ロシアなども文化外交や、自国の言語や文化を世界に広めることによってソフトパワーを実践している。

しかし彼の理論が最も影響を与えたのはアメリカの外交政策立案者たちであり、彼らは理念や道徳的価値観、国際機関や制度を重視する外交官となった。国際問題は外交上の対話によって解決できると信じる、楽観的な外交主義者を生み出した。


彼らは開発援助や民主化支援、防衛保障、兵器、有利な通商条件などを通じて寛大さを示せば、善意が返ってくると信じた。こうした国際関係の研究者や実務家は、多国間機関や条約、同盟、さらには公的資金が支える平和団体や開発機関、報道機関といったアメリカのパワーを行使するツールの使い方を訓練された。

ナイ自身は制度や組織の役割を理論的に擁護するだけでなく、思想を実行に移す実践力を持っていた。カーター政権とクリントン政権で要職を務め、国際安全保障問題担当の国防次官補や国家情報会議の議長などを歴任した。

95年には東アジアへの積極的関与を提唱する「東アジア戦略報告」を発表。二十数年後、実際にバイデン政権が外交の軸足をアジアに移す方針を打ち出した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

韓国、米と交渉加速へ トランプ氏が「8月1日から2

ワールド

日韓に25%関税、トランプ氏が貿易相手国に書簡 交

ワールド

トルコのクルド系野党、PKK武装解除巡りエルドアン

ワールド

トランプ政権の対BRICS追加関税、あくまで「反米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 6
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 9
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 10
    新党「アメリカ党」結成を発表したマスクは、トラン…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中