ジョセフ・ナイが遺した「ソフトパワー」...トランプ再登場でその理想も静かに幕を閉じる

THE LOSS OF NYE’S WORLD

2025年5月22日(木)09時08分
スザンヌ・ノッセル(元米国務副次官補)

第2次トランプ政権は最初の数カ月で、ナイが浸透させる力になったソフトパワーに対する取り組みを見事に放棄した。

米国際開発庁(USAID)を解体し、人道的・人権的活動に従事する市民団体への資金提供を削減した。移民や外国人のビザを制限し、大学や研究機関を攻撃し、世界各地における外交的プレゼンスを縮小した。

国の理想が消えゆくなかで

一方で、ドナルド・トランプ米大統領は大西洋を横断した同盟関係には無関心だ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を甘やかし、カナダ、パナマ、グリーンランドを脅した。一貫性のない関税政策は、アメリカの戦後アイデンティティーの土台に亀裂を入れた。


ナイはこの巻き返しを目の当たりにした。死のちょうど1週間前、彼はCNNのインタビューで語った。

「トランプ大統領はソフトパワーを理解していないと思う。パワーを棍棒、ニンジン、ハチミツに例えるなら、彼はハチミツを捨てた。だがこの3つが互いに補強し合えば、より多くの成果がある。ハチミツという魅力があれば、ニンジンと棍棒を使わずに済むかもしれない。だからUSAIDの人道支援の中止のようなものは、パワーを発揮する主要回路の1つを失うことを意味する」

今年5月1日、CNNのインタビュー

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インサイト:揺らぐ日本の自動車産業、競争環境の変化

ビジネス

中国当局、預金金利の上限引き下げ 銀行の利ざや防衛

ワールド

米、6月に日韓台とエネ会議 アラスカパイプライン計

ビジネス

英小売売上高、4月は前月比+1.2% 好天が寄与
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 4
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 5
    子育て世帯の年収平均値は、地域によってここまで違う
  • 6
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 7
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 8
    米国債デフォルトに怯えるトランプ......日本は交渉…
  • 9
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 10
    「誰もが虜になる」爽快体験...次世代エアモビリティ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 4
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 5
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 6
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 8
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中