最新記事

米戦略

ロシアが核を使えば、アメリカも核を使う──ロシアを止めるにはそれしかない

TIME FOR A BLUNT HAMMER

2022年10月13日(木)17時05分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)
B52戦略爆撃機

核兵器搭載可能なB52戦略爆撃機は既にヨーロッパに配備されている TREVOR T. MCBRIDEーU.S. AIR FORCE

<アメリカも核兵器を使う可能性に言及するべきだ。「強力に対応する」と言うだけでは、核戦争を本当に防ぐ抑止策にならない>

もしもロシアが核兵器を使えば、アメリカ合衆国は「強力に対応」する。ジョー・バイデン米大統領はそう言っている。だが、その際にアメリカも核兵器を持ち出すのか、それとも別な方法でロシアの核先制使用を抑止するのか。この点については政権幹部と軍部の間で見解が割れていると、事情に通じた3人が匿名を条件に本誌に語った。

「ここまで核兵器の使用に近づいたのは半世紀も前のキューバ危機以来だ」と言ったのは、米戦略軍の本部に詰める文民の計画官。「しかしわが国は、プーチンの暴走を止めるのに必要な正しいメッセージを送っているだろうか」

この核戦略計画官と2人の米軍幹部によると、仮にロシアが核攻撃に踏み切ったとしても、バイデンはアメリカの核を使わないつもりだ。3人ともそれに異論はなく、アメリカによる核の先制使用も排除している。しかしロシア大統領ウラジーミル・プーチンによる核の先制使用を本気で防ぐつもりなら、アメリカも核戦争の話をすべきであり、そこで躊躇してはならないと主張する。

「ここからは未知の領域だ」。米軍情報部の高官はそう指摘した。「強力に対応するぞ、ロシアに壊滅的な結果をもたらすぞと言いつつも、核戦争には言及しない。それで本当にプーチンを止められるか。私には、そうは思えない」

バイデンも国家安全保障会議(NSC)の面々も、アメリカに対する本格的な攻撃でも始まらなければ核のボタンを押すつもりはない。それはいいが、核抑止力の計画立案や情報発信において核以外の「使用可能な」手段しか示さないのは間違いだと、この3人は考える(3人とも核戦略の立案に関わっている)。

「はったりではない」の意味

「(核抜きの)威嚇で本当にプーチンを止められるのか、そこを熟考すべきだ」。元は爆撃機のパイロットで、今は国防総省本部に詰める武官は本誌にそう語った。

一方のプーチンはウクライナ侵攻に踏み切って以来、ロシア領への直接攻撃があれば核兵器の使用を辞さないと語り、これは「はったりではない」と念を押してもいる。第2次大戦以来となる動員令を出した日のテレビ演説でも、「わが国の領土に対する脅威が生じた場合、国家と国民を守るため、利用可能な全ての兵器システムを使うのは当然」だと述べている。

ロシア政府高官によれば、ウクライナ戦の始まるずっと前、具体的には2020年6月に、ロシアは正式の核抑止戦略を発表し、核兵器使用の条件を明示している。そこには、「国家の存立」に関わる脅威があれば、それが非核攻撃であっても核の先制使用に踏み切るとある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪首相、12日から訪中 中国はFTA見直しに言及

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

赤沢再生相、米商務長官と電話協議 「自動車合意なけ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中