最新記事

経済制裁

NY高級マンション所有者はロシア人だらけだった...オリガルヒの栄華に迫る当局

OLIGARCHS IN NEW YORK

2022年4月20日(水)17時09分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

ペントハウスの売買をきっかけにニューヨークの不動産市場は一変したと、ミラーは言う。「(8800万ドルは)衝撃的な数字だった。相場と関係なく降って湧いたような金額で、それが触媒となり大爆発が起きた」

ペントハウスの専有面積は約650平方メートル。つまり1平方メートルにつき、約13万5000ドルという計算になる。わずか7年前には、この地域の分譲マンションは1平方メートル2万ドルでも高すぎるとみられていた。

以後、不動産開発業者は金に糸目を付けずにセントラルパーク周辺、さらにはマンハッタンの他のめぼしい用地を押さえ始めた。公園に面した不動産の開発は競争が激しく、用地の取得には法外な金がかかる。勢い開発業者は超豪華マンションを建てて世界の長者番付に名を連ねる大富豪に売り、元を取ろうとする。

ミラーによると11年以降、分譲価格が1000万ドルを超える高級物件がこの地域の新築マンションのざっと半数を占めるようになった。公園の南側の一画には針のように細い高層タワーが8棟も立ち並び、ここは「ビリオネアズ・ロウ(億万長者通り)」と呼ばれるようになった。

街並みを見下ろすニューヨークの王様

これらの高層タワーは内装も贅を極め、全面ガラス張りの窓からはそれこそニューヨークの王様になった気分でセントラルパークとマンハッタンの街並みを見渡せる。

とはいえオリガルヒをはじめ資産の安全な保管場所を求める人たちにとって、こうした超高級マンションの最大の魅力は「匿名性」だ。

伝統的に金融業界のエリートが暮らしてきたマンハッタンの高級住宅地アッパー・イーストサイドの豪華マンションと違って、ビリオネアズ・ロウの新築マンションなら、管理組合が入居者の身元をうるさくチェックすることもない。ここの新築マンションの入居資格はただ一つ、「金を山ほど払えること」だ。

土地・建物などの資産公開を義務付けたアメリカの法律に大きな抜け穴があることは、政策立案者も気付いていた。01年の9.11同時多発テロ後、米上院常設調査小委員会はここ数十年で最も包括的なマネーロンダリング対策をまとめ、テロ対策法(愛国法)の規定に盛り込み、上下院で成立させた。

この規定は不動産や高級品の取引がマネーロンダリングに利用されることを防ぐため、関連業界に顧客に関する「デューデリジェンス」(リスク評価と調査)の実施を義務付けている。この規定の適用対象となった業界は宝石商、ヘッジファンド、不動産エージェントなど、いずれも巨額の取引を扱う業界だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ワールド

インド製造業PMI、4月改定値は10カ月ぶり高水準

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む LNGの価格下落な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中