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経済制裁

NY高級マンション所有者はロシア人だらけだった...オリガルヒの栄華に迫る当局

OLIGARCHS IN NEW YORK

2022年4月20日(水)17時09分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

ただし、それを特定するのは容易ではない。汚職取り締まりや法執行の専門家は数十年前から、この国のマネーロンダリング(資金洗浄)規制法や金融情報公開法、特に不動産関連の法律は多くのヨーロッパ諸国に比べて甘く、アメリカは資産隠しの中心地になりつつあると警鐘を鳴らしてきた。

政情不安定な国の住人や資産の没収を恐れる理由がある者たちにとって、数千万ドル規模の不動産物件は特に魅力的だ。アメリカの政治体制と通貨の米ドルが比較的安定しているため、購入する側の外国人から見て、これらの不動産は資産価値の保存が期待できる。

アメリカの法制度は不動産所有者の権利保護を重視する傾向がある上に、資産購入資金の出所は各種信託やLLC(有限責任会社)を経由させることで簡単に隠蔽が可能だ。不動産業界などの強力なロビー活動のおかげで、アメリカの多くの州ではペーパーカンパニーを設立して簡単に身元を隠すことができる。

国際的な汚職監視団体トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)のアメリカ担当責任者ゲーリー・カルマンは言う。「マンション購入資金の多くは、出所が解明されないだろう。議会は全速力で(法の)抜け穴を埋めるべきだ」

存在は明白だが特定が困難なロシアマネー

マンハッタンほどロシアマネーの影響力と存在感が明らかで、しかも特定が困難な場所はないだろう。過去10年間、この街の不動産デベロッパーはセントラルパーク付近に細長い超高層ビルを次々と建ててきた。これらは世界人口の0.01%の超富裕層、特にロシア人オリガルヒ向けに設計・販売されてきた物件だ。

市民の憩いの場であるセントラルパークの芝生広場に細長い影を落とすこれらの超高級物件のおかげで、マンハッタンの地価は高騰した。これに反発した市民の間で開発反対運動が盛り上がり、市当局が前々から進めてきたアマゾンの「第2の本社」誘致計画は19年に頓挫した。

悪いのはロシア人なのか。ニューヨークの名うての不動産鑑定士、ジョナサン・ミラーは黙ってうなずき、説得力ある証拠を挙げる。セントラルパークに隣接する超高層マンションの建設ブームに火を付けたのは、たった1件の取引だというのだ。

シティグループ元会長のサンフォード・ワイルは11年、化学肥料で財を成したロシア人のドミトリー・リボロフレフに、公園に面した高層ビルのペントハウス(最上階の住戸)を8800万ドルで売った。これは数年前にワイルが購入した価格の倍の高値だ。リボロフレフはフランスのプロサッカークラブであるASモナコのオーナーで、08年にはドナルド・トランプ前米大統領のパームビーチの豪邸を9500万ドルで購入している。

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